離島の保育所の保育士は店を畳まない
磨けば、島の声が見える。
あらすじ
海野綾は、離島の小さな保育所で道具を丁寧に手入れする女性保育士だ。彼女が磨いたスプーンや皿、木の玩具は、誰かがそれを使う瞬間にだけその人の「疲れ」を一度だけ映し出す──ささやかで不完全な力だが、使い過ぎれば力は消え、綾自身が眠れなくなる代償がある。そんな折、自治体の「効率化」や外部調査が持ち込まれ、保育所(兼店)が閉鎖・用途変更の危機にさらされる。綾は力をどう使うか、仲間や島の人々とどのように声を合わせるかを問われ、個人の癒やしと行政の数値化という相反する論理の間で選択を迫られる。波の匂い、台所の手仕事、住民集会や視察の場面を通して、共同体の意思と小さな儀式の価値が丁寧に描かれていく物語。結末は読者の手に委ねられ、主人公と島がどのように決断するかが読みどころとなる。