獣灯りの聖域医師
小さな手で、見えない苦痛をたどる
あらすじ
前世で獣医だった男の記憶を持って目覚めたのは、十歳の少女リト・エルネの身体だった。獣や人の微かな呼吸や痛みを「聞き分ける」力はそのままに、リトは神殿の仲間たちと村で起きた原因不明の病と向き合う。赤茶の角獣の急変、青白い斑が浮く水路、組合の保存肉と樽の流通――小さな観察と記録を積み重ねることで、彼女は見えない汚染の線をたどり、村の人々の暮らしと祭りをめぐる利害とぶつかっていく。診察や簡易隔離、煮沸や分配といった現場の手順と、地図・絵記号による情報整理が物語の読みどころ。ネブラという袖に寄り添う小さな存在や、鉱山排水や井戸の匂いの描写が世界の危うさを濃くする。主人公の職人的な観察眼と、共同体を守ろうとする地道な行動が物語を引っぱる。