ナイター照明が消えない球場 第4話「第3章:電気のない光」
三日目。球場の異常点灯は、もはや無視できない社会問題になっていた。近隣住民からは「眩しくて眠れない」という苦情が入り、市役所には連日電話が鳴り響いている。
三日目。球場の異常点灯は、もはや無視できない社会問題になっていた。近隣住民からは「眩しくて眠れない」という苦情が入り、市役所には連日電話が鳴り響いている。
紬は電気工事会社の技師たちを引き連れて、照明塔の点検に立ち会っていた。
「おかしいですね……」
作業員の一人が、首を傾げながらテスターを片付けた。
「浅倉さん、これ、電気が通ってませんよ」
「えっ? でも、あんなに光っているのに」
「基盤は完全にショートしてます。変圧器も死んでる。物理的に、この照明塔が光ることは不可能です。外部から電力を引いている形跡もありません。幽霊の仕業だって言われた方がまだ納得できますよ」
技師たちは薄気味悪そうに照明塔を見上げた。真昼の太陽の下でも、その照明は消えることなく、淡い白光を放ち続けている。それは電気の光というよりは、何かが発酵して滲み出しているような、あるいは誰かの溜息が光を帯びたような、有機的な輝きだった。
紬は照明塔の土台に手を触れてみた。熱くない。むしろ、氷のように冷たかった。
「……想い、なの?」
彼女は小さく呟いた。
この球場に染み込んだ、何千人、何万人という人々の記憶。歓喜、絶望、そして後悔。それらが再開発という死を前にして、最後の一花を咲かせようとしているのではないか。
点検が終わった後、紬は管理員室を訪ねた。そこにいたのは、この球場で三十年以上守衛を務めている源(げん)さんだ。
「源さん、この照明のこと、何か知っていますか?」
源さんは古いラジオのダイヤルを回しながら、静かに答えた。
「球場っていうのはね、浅倉さん。単なる砂とコンクリートの塊じゃないんだ。あそこは『約束』の場所なんだよ。選手と観客、親と子、そして自分自身とのな」
源さんは窓の外のグラウンドに目を向けた。
「あの日……湊くんが死んだあの夜も、この球場は泣いていた。あの子はね、自分のために野球をやってたんじゃない。誰かのために、最後の一球を投げようとしていたんだ。その約束が果たされない限り、あの光は消えんよ」
源さんの言葉は、重く紬の胸に響いた。
誰かのために。
湊が最後に投げようとしていたのは、チームの勝利のためだけではなかったはずだ。
紬は、管理員室の壁に貼られた十年前の新聞の切り抜きを見つめた。そこには、泥だらけでマウンドに立つ湊と、次打者として控える律の姿が写っていた。
二人の視線は、確かに交差していた。そこには言葉を超えた信頼と、ある種の「誓い」があった。
紬は決意した。
科学が匙を投げたのなら、自分のやり方でこの光を消してみせる。
それは、市役所の職員としての仕事ではなく、一人の妹として、そしてあの夏を共有したマネージャーとしての、最後の義務だった。