ナイター照明が消えない球場 第2話「第1章:再演される雨天中止」
翌晩、予報通りに雨が降り出した。
翌晩、予報通りに雨が降り出した。
紬は吸い寄せられるように、再び球場を訪れていた。事務手続き上は「異常点灯の確認」ということになっていたが、彼女の胸のうちはもっと個人的な、狂おしいほどの衝動に支配されていた。
雨脚が強まるにつれ、例の照明塔の光はますますその輝きを増していく。まるで雨粒を燃料にして燃え盛っているかのようだ。水滴が光を屈折させ、グラウンド全体がプリズムの中に閉じ込められたような幻想的な光景を作り出している。
バックネット裏の観客席に身を潜めるようにしてグラウンドを見下ろすと、そこにはあり得ない光景が広がっていた。
泥まみれのユニフォームを着た少年たちが、守備位置についている。ベンチからは声が上がり、コーチャーズボックスではランナーを鼓舞するジェスチャーが繰り返されている。しかし、声は聞こえない。すべての動きは無音で、古いモノクロ映画のサイレントシーンを見ているかのようだった。
「雁首高校……」
紬は震える声で呟いた。胸元の校章、特徴的なエンジ色のストライプ。それは十年前のあの日、彼女がマネージャーとして見守っていた野球部の姿そのものだった。
スコアボードを見上げると、電光掲示板ではなく、古い手書きのパネルがそこにある。
『九回裏 二死満塁 雁首 2 - 3 開明大附』
それは、歴史が途絶えた瞬間だった。十年前の県大会決勝。逆転のチャンスで、空が割れるような豪雨が降り注ぎ、審判が試合の中断を告げた。そのまま雨は止まず、試合はノーゲームとなった。再試合の機会は、エースだった湊の死によって、永遠に失われたのだ。
マウンドに立つ投手は、セットポジションに入った。雨に濡れた前髪を払い、捕手のサインを覗き込む。その横顔は、紬の記憶にある湊よりも少しだけ大人びて、精悍に見えた。
湊は大きく振りかぶった。指先から放たれたボールは、雨を切り裂く白い閃光となってキャッチャーミットに吸い込まれる――はずだった。
パッ。
ミットに届く直前で、すべての幻影が霧のように消えた。
後に残ったのは、激しく降り続く雨と、無機質に光り続ける照明塔だけだった。
「湊……待って、行かないで!」
紬はフェンスにしがみついたが、返ってくるのは冷たい雨音だけだ。彼女は泥濘んだ地面に膝をつき、激しく脈打つ胸を押さえた。
彼らは、まだ戦っている。あの雨の中で止まってしまった時間を、何度も、何度も繰り返しているのだ。勝者も敗者もいないまま、出口のない九回裏を彷徨い続けている。
紬は確信した。あの照明塔を消す方法は、スイッチを落とすことではない。あの試合を、彼らの物語を、終わらせてあげることなのだと。