赤道直下の氷配達 第9話「第7章:氷の架け橋」
沈黙が流れた。あまりにも荒唐無稽な提案だ。数千キロの氷を谷に投げ捨て、その上を走るなど、正気の沙汰ではない。 「氷は溶ける。だが、夜のこの時間なら、ドライアイスと混ぜれば数時間は固まったままだ。車列(コンボイ)を連結して、一台ずつ氷を放出しながら進む。……一人じゃ無理だ。でも、ここにいる十台が協力すれば、道は作れる!」 『……面白いじゃねえか』 最初に応答したのは、ナオを「反逆者」と呼んで追いかけようとしたあの主任ドライバーだった。 『どのみち、ここで朝日を浴びれば氷は全部水だ。だったら、ガキどものために一花咲かせてやるよ』 一台、また一台と、トラックのライトが点灯した。 ナオの指示の下、巨大
沈黙が流れた。あまりにも荒唐無稽な提案だ。数千キロの氷を谷に投げ捨て、その上を走るなど、正気の沙汰ではない。
「氷は溶ける。だが、夜のこの時間なら、ドライアイスと混ぜれば数時間は固まったままだ。車列(コンボイ)を連結して、一台ずつ氷を放出しながら進む。……一人じゃ無理だ。でも、ここにいる十台が協力すれば、道は作れる!」
『……面白いじゃねえか』
最初に応答したのは、ナオを「反逆者」と呼んで追いかけようとしたあの主任ドライバーだった。
『どのみち、ここで朝日を浴びれば氷は全部水だ。だったら、ガキどものために一花咲かせてやるよ』
一台、また一台と、トラックのライトが点灯した。
ナオの指示の下、巨大な貨物車たちが整列する。連結用のワイヤーが次々と繋がれ、一つの巨大な百足のような姿になった。
「全車、リアゲート開放! 氷の放出開始!」
ナオの合図とともに、トラックの背後から巨大な氷のブロックが次々と谷底へ投げ落とされた。ガラガラと雷のような音が響き、深い闇の中に白い山が築かれていく。
ドライアイスの冷気が霧となって立ち込め、谷全体を真っ白に染め上げる。
「スノウ・ホワイト号、前進!」
ナオはアクセルを踏んだ。タイヤが氷の山に乗り上げる。滑る。だが、後続のトラックがワイヤーで押し上げ、左右の車両が壁となって支える。
氷の軋む音が、まるで悲鳴のようにコックピットに響く。
「いけ……いけ……!」
視界はゼロだ。ナオは目をつむり、ステアリングから伝わる微かな振動だけに集中した。父が教えてくれた、路面と対話する感覚。
不意に、車体がふっと軽くなった。
目を開けると、そこには崩落現場の向こう側、病院へと続く平坦なアスファルトが広がっていた。
「……抜けたぞ! 全員、抜けた!」
無線から歓喜の叫びが上がる。だが、ナオの顔に余裕はなかった。
コンソールの時計は、残り十五分を示していた。