赤道直下の氷配達

赤道直下の氷配達 第7話「第5章:冷気の守護者」

「父さん……?」 ナオは無線機を耳に押し当てた。だが、聞こえてくるのは風の音のようなスタティック・ノイズだけだ。先ほどの声は、極限状態が見せた幻聴だったのか。それとも、太陽嵐が過去の電波をこの場所に運んできたのか。 「ナオ、どうしたんだ? 顔色が悪いぞ」 テオが心配そうに覗き込んでくる。ナオは首を振って思考を振り払った。 「いえ、なんでもありません。テオさん、この診療所の冷却システムを見せてください」 「えっ? でも、氷を運び込むのが先じゃ……」 「氷を置くだけじゃ足りない。システムを直して、持続的に冷やせるようにしないと。……この診療所、父が昔言っていた場所に似ているんです」 ナオは診療所の

「父さん……?」
 ナオは無線機を耳に押し当てた。だが、聞こえてくるのは風の音のようなスタティック・ノイズだけだ。先ほどの声は、極限状態が見せた幻聴だったのか。それとも、太陽嵐が過去の電波をこの場所に運んできたのか。
「ナオ、どうしたんだ? 顔色が悪いぞ」
 テオが心配そうに覗き込んでくる。ナオは首を振って思考を振り払った。
「いえ、なんでもありません。テオさん、この診療所の冷却システムを見せてください」
「えっ? でも、氷を運び込むのが先じゃ……」
「氷を置くだけじゃ足りない。システムを直して、持続的に冷やせるようにしないと。……この診療所、父が昔言っていた場所に似ているんです」
 ナオは診療所の裏手にある古い熱交換器へ走った。そこには「G.N.」というイニシャルが刻まれた、無骨な修理の跡があった。ナオの父、ゴウ・ナカジマの仕業だ。
 父はこの場所を救っていた。効率という名の網から漏れたこの小さな診療所を、人知れず守り続けていたのだ。
「テオさん、このパイプの接合部を氷で冷やし続けてください。結露を利用して回路のオーバーヒートを防ぐんだ。俺が持ってきた氷の三分の一をここに残します」
「三分の一も!? でも、大病院の方は……」
「あとの三分の二で、なんとかします。……いや、なんとかしてみせる」
 ナオはスノウ・ホワイト号のコックピットに飛び乗った。背後でテオが深く頭を下げるのが見えた。
 再び砂漠の闇へ。しかし、今度のナオに迷いはなかった。
「ゲンさん、聞こえますか。父さんの声を……聞いた気がするんです」
『……ほう。あいつはしぶとい男だったからな。電波の屑になっても、お前を導こうとしているのかもな』
「父さんは言いました。『道がないなら、氷で埋めろ』って。どういう意味だと思いますか?」
『さあな。だが、あいつが最後に挑んだのは、ハイウェイの第四セクション、あの崩落現場だったはずだ』
 ナオはアクセルを踏み込んだ。大病院への最短ルート上にある第四セクション。そこは数年前の地震で崩落し、現在は自動運転車専用の「空中回廊」が架けられている場所だ。だが、太陽嵐で制御を失った今、その回廊は閉鎖されているはずだった。