海底駅の最終乗客

海底駅の最終乗客 第9話「第8章:泥土の隠蔽」

車両が地上までの中間地点に達したとき、再び凄まじい振動が襲った。 「陸さん、後ろが! 天井が落ちてくる!」 志織が叫ぶ。見ると、トンネルの構造体が水圧によって次々と崩壊し、巨大な鉄骨が落下してきていた。 管理センターが、異常なエネルギーの流出を止めるために、トンネル自体の爆破封鎖を開始したのだ。彼らにとって、この列車は「排除すべきエラー」に過ぎなかった。 「ふざけるな……! まだ乗客が乗ってるんだぞ! 一人だって置いていかない!」 陸は怒りに燃えた。彼らにとって、この記憶の残滓は「異常」かもしれない。だが、陸にとっては、これこそが救われるべき「乗客」だった。 突然、車両の前に巨大な人影が現れた

車両が地上までの中間地点に達したとき、再び凄まじい振動が襲った。
「陸さん、後ろが! 天井が落ちてくる!」
 志織が叫ぶ。見ると、トンネルの構造体が水圧によって次々と崩壊し、巨大な鉄骨が落下してきていた。
 管理センターが、異常なエネルギーの流出を止めるために、トンネル自体の爆破封鎖を開始したのだ。彼らにとって、この列車は「排除すべきエラー」に過ぎなかった。
「ふざけるな……! まだ乗客が乗ってるんだぞ! 一人だって置いていかない!」
 陸は怒りに燃えた。彼らにとって、この記憶の残滓は「異常」かもしれない。だが、陸にとっては、これこそが救われるべき「乗客」だった。
 突然、車両の前に巨大な人影が現れた。
 それは、巨大化した祖父・宗一郎の姿だった。彼は若き日の制服を着て、凛とした表情で立っていた。
 彼は両手を広げ、落下してくる鉄骨を支え、車両の進路を確保していた。その姿は、かつて祖父が語っていた「英雄」そのものだった。
「じいちゃん……?」
 祖父の顔は、苦悶に満ちていたが、その瞳は陸をしっかりと見つめていた。
『陸……行け。お前が、私のやり残したことを……終わらせるんだ。私はここで、扉を閉める役目を引き受ける。お前は、扉を開ける役目を果たせ』
 祖父の声が、直接陸の脳内に響いた。
 祖父は、死してなおこの駅に留まり、この瞬間を待っていたのだ。自分が犯した罪を、孫が正してくれるこの時を。彼は、自分の魂を楔にして、崩壊するトンネルを支えていた。
「じいちゃん、ありがとう! あとは僕に任せて! 二度と、誰も取り残さない!」
 陸は叫び、車両をさらに加速させた。
 祖父の影は、鉄骨の下敷きになりながらも、最後まで道を開け続けた。その姿が光の中に消えていくのを見て、陸の目から熱いものが溢れた。
 彼はもう、祖父を憎んではいなかった。祖父がどれほどの重圧の中で、それでも一人の子供を守り抜こうとしたか、その真実を知ったからだ。祖父は英雄ではなかったかもしれないが、一人の鉄道員として、最期まで職務を全うしようとしていた。
 車両は、崩壊するトンネルを紙一重で抜け出し、最終セクションへと突入した。