海底駅の最終乗客

海底駅の最終乗客 第10話「第9章:少年の伝言」

地上まであと数百メートル。出口の光が見え始めたとき、海斗の姿が急速に透き通り始めた。 「海斗! しっかりして! もうすぐよ、もうすぐお日様が見えるわ! 本物の青い空が見えるのよ!」 志織が必死に海斗の手を握るが、今度はその指先が光の粒子となって零れ落ちていく。 「お姉ちゃん……僕、もう満足だよ。お姉ちゃんに会えて、駅長さんの約束も守ってもらえて。僕の時間は、ここでおしまいなんだ」 「ダメよ、海斗! 一緒に帰るって約束したじゃない! 家族でまた、あのご飯を食べに行くのよ!」 「約束は、もう守られたんだよ。お姉ちゃんが、僕のことを忘れずにいてくれたから、僕はここまで来られたんだ。お姉ちゃんの心の中

地上まであと数百メートル。出口の光が見え始めたとき、海斗の姿が急速に透き通り始めた。
「海斗! しっかりして! もうすぐよ、もうすぐお日様が見えるわ! 本物の青い空が見えるのよ!」
 志織が必死に海斗の手を握るが、今度はその指先が光の粒子となって零れ落ちていく。
「お姉ちゃん……僕、もう満足だよ。お姉ちゃんに会えて、駅長さんの約束も守ってもらえて。僕の時間は、ここでおしまいなんだ」
「ダメよ、海斗! 一緒に帰るって約束したじゃない! 家族でまた、あのご飯を食べに行くのよ!」
「約束は、もう守られたんだよ。お姉ちゃんが、僕のことを忘れずにいてくれたから、僕はここまで来られたんだ。お姉ちゃんの心の中に、僕の居場所はずっとあったんだね」
 海斗は優しく微笑み、志織の頬を撫でた。その感触は、春の陽だまりのように温かかった。
「お姉ちゃん。あの日、手を離しちゃってごめんねって言いたかったけど、本当はね……手を離してくれてよかったんだよ。お姉ちゃんが生きててくれたから、僕は寂しくなかった。僕の分まで、お姉ちゃんが世界を見てくれたから」
 志織は声を上げて泣いた。二十年間、彼女を縛り続けてきた鎖が、少年のたった一言で跡形もなく砕け散った。
 海斗は陸に向き直った。
「お兄ちゃん。この切符、お兄ちゃんにあげる。これは、僕たちが一緒に旅をした証拠だよ」
 海斗は、あの硬券を陸の手に握らせた。
「お兄ちゃんは、いい駅員さんだね。いつか、本当の列車で、たくさんの人を幸せにしてあげてね。僕も、空から見てるよ」
 海斗の姿は、眩い光となって弾け、車両全体を包み込んだ。
 その光が、停止しかけていたモーターに最後のエネルギーを与えた。
「……ああ、約束するよ。海斗くん。最高の運転士になってみせる」
 陸は前を見据え、光の出口へと飛び込んだ。