海底駅の最終乗客

海底駅の最終乗客 第8話「第7章:地図にない転轍機」

駅全体の電力が、3番ホームの先にある隠し路線へと流れ込んだ。 暗闇の中で、二十年間放置されていたレールが青白く発光し、巨大な回路のように浮かび上がった。その光は、深海の闇を押し返し、海底一、〇〇〇メートルに奇跡のような光の道を作った。 「海斗くん、雨宮さん、これに乗って!」 陸が指差したのは、錆びついた小型保守車両だった。それはかつて、深海資源を運ぶためのトロッコだったが、今は量子の光を纏い、幻想的な「銀河鉄道」のような姿に変貌していた。車体からは青い火花が散り、エンジンは力強い鼓動を刻んでいる。 海斗が車両に乗り込むと、彼の体から溢れ出す光が車両全体を包み込んだ。 「お兄ちゃん、早く! 水が

駅全体の電力が、3番ホームの先にある隠し路線へと流れ込んだ。
 暗闇の中で、二十年間放置されていたレールが青白く発光し、巨大な回路のように浮かび上がった。その光は、深海の闇を押し返し、海底一、〇〇〇メートルに奇跡のような光の道を作った。
「海斗くん、雨宮さん、これに乗って!」
 陸が指差したのは、錆びついた小型保守車両だった。それはかつて、深海資源を運ぶためのトロッコだったが、今は量子の光を纏い、幻想的な「銀河鉄道」のような姿に変貌していた。車体からは青い火花が散り、エンジンは力強い鼓動を刻んでいる。
 海斗が車両に乗り込むと、彼の体から溢れ出す光が車両全体を包み込んだ。
「お兄ちゃん、早く! 水が来ちゃう!」
 陸も運転席に飛び乗り、制御系を起動させた。
 ガコン、という衝撃と共に、車両が動き出した。
 背後では、第四区画のハッチが激しい水圧に耐えかねてひしゃげ、海水が濁流となって流れ込んでくるのが見えた。轟音と共に、駅の構造物が次々と破壊されていく。
「逃げ切るんだ……! 過去を振り切って!」
 陸はスロットルを全開にした。車両は猛烈な勢いで加速し、螺旋状のトンネルを駆け上がっていく。
 周囲の景色は、もはや現実のものではなかった。トンネルの壁面には、二十年前の《深波》の日常が、走馬灯のように映し出されていた。
 笑い合う家族。談笑する作業員たち。子供たちにキャンディを配る売店のおばさん。そして、若き日の祖父が、誇らしげに制帽を直す姿。
「みんな……帰りたいんだ。あの日、ここで終わってしまった人たちの想いが、この列車を押し上げている」
 志織が呟いた。車両の周りには、いつの間にか無数の光の球が並走していた。それは、あの日この場所で失われた、あるいは置き去りにされた人々の「想い」だった。
 陸は、自分が単なる駅員ではなく、彼らの魂を地上へ運ぶ「先導者」になったのだと悟った。
「こちら、海底駅《深波》最終列車です!」
 陸はマイクを握り、全セクションに向けて放送した。スピーカーは音割れしながらも、彼の声を駅中に届けた。
「全ての乗客の皆様、お待たせいたしました。これより、地上への最終運行を開始します。どうぞ、お手持ちの記憶を大切に、目的地までお過ごしください! 終点まで、私たちが責任を持ってご案内いたします!」
 その放送に応えるように、トンネル内に歓声のような風が吹き抜けた。光の球たちが、一斉に輝きを増す。
 車両は、押し寄せる海水を間一髪でかわしながら、垂直に近い勾配を駆け上がっていく。