海底駅の最終乗客 第14話「エピローグ:夜明けのプラットホーム」
三年後。 陸は、北国の小さなローカル線の運転士になっていた。 雪に覆われた原野を走る、一両編成のディーゼルカー。海底駅の鉄と油の匂いとは違う、冷たく澄んだ冬の匂いが運転台に満ちている。 駅に停まるたび、陸は丁寧に乗客を迎え入れ、送り出した。 「ありがとうございました。お気をつけて」 その言葉には、かつて見習いだった頃にはなかった、深い慈しみが込められていた。 ある日の夕暮れ。 終着駅に到着した陸は、乗客が全員降りたのを確認し、車内の点検を始めた。 最後尾の座席に、小さな忘れ物があった。 それは、手作りの小さな貝殻のペンダントだった。あの日、志織が持っていたものと同じ輝きを放っていた。 陸はそれ
三年後。
陸は、北国の小さなローカル線の運転士になっていた。
雪に覆われた原野を走る、一両編成のディーゼルカー。海底駅の鉄と油の匂いとは違う、冷たく澄んだ冬の匂いが運転台に満ちている。
駅に停まるたび、陸は丁寧に乗客を迎え入れ、送り出した。
「ありがとうございました。お気をつけて」
その言葉には、かつて見習いだった頃にはなかった、深い慈しみが込められていた。
ある日の夕暮れ。
終着駅に到着した陸は、乗客が全員降りたのを確認し、車内の点検を始めた。
最後尾の座席に、小さな忘れ物があった。
それは、手作りの小さな貝殻のペンダントだった。あの日、志織が持っていたものと同じ輝きを放っていた。
陸はそれを手に取り、ふと窓の外を見た。
夕焼けに染まる雪原の向こう側に、黄色いレインコートを着た少年が立っているような気がした。
少年は、陸に向かって元気に手を振っている。
陸は微笑み、軽く敬礼を返した。
「出発、進行」
陸はブレーキを緩め、列車をゆっくりと走らせ始めた。
夜の帳が下りてくる。だが、列車のヘッドライトは、どこまでも続くレールを力強く照らし出していた。
彼はこれからも、乗客たちを運んでいくだろう。
それぞれの喜びと、それぞれの悲しみを乗せて。
夜明けの光が待つ、その先まで。
(完)