海底駅の最終乗客 第15話「後日談:蒼い海の記憶」
陸が運転士として働き始めてから五年の月日が流れた。 彼はある日、休暇を利用して、かつての《深波》の地上跡地を訪れた。そこには、以前よりも立派な記念公園が整備され、海底駅の歴史を伝える小さな博物館も併設されていた。 博物館の中には、陸が提供した祖父の日誌や、あの真鍮の鍵のレプリカも展示されていた。 館内を歩いていると、一人の女性に声をかけられた。 「陸さん、お久しぶりです」 志織だった。彼女は以前よりも穏やかな表情をしており、その隣には小さな男の子が立っていた。 「雨宮さん。お久しぶりです。その子は……?」 「私の息子です。名前は……海(かい)って言います。海斗から一文字もらいました」 海と呼ば
陸が運転士として働き始めてから五年の月日が流れた。
彼はある日、休暇を利用して、かつての《深波》の地上跡地を訪れた。そこには、以前よりも立派な記念公園が整備され、海底駅の歴史を伝える小さな博物館も併設されていた。
博物館の中には、陸が提供した祖父の日誌や、あの真鍮の鍵のレプリカも展示されていた。
館内を歩いていると、一人の女性に声をかけられた。
「陸さん、お久しぶりです」
志織だった。彼女は以前よりも穏やかな表情をしており、その隣には小さな男の子が立っていた。
「雨宮さん。お久しぶりです。その子は……?」
「私の息子です。名前は……海(かい)って言います。海斗から一文字もらいました」
海と呼ばれた男の子は、陸に向かって元気に挨拶した。その瞳は、あの夜に見た海斗の瞳とそっくりだった。
「海斗は、きっと喜んでいるでしょうね」
陸が言うと、志織は深く頷いた。
「ええ。あの子が繋いでくれたこの命を、大切に育てています。陸さん、あなたの走らせる列車に、いつかこの子と乗りに行きますね」
「ええ、お待ちしています。最高の席を用意しておきますよ」
二人は、キラキラと輝く海を見つめながら、しばらくの間語り合った。
海底駅《深波》は、もうどこにも存在しない。だが、そこから始まった物語は、新しい命へと引き継がれ、地上の光の中で確かに息づいている。
陸は、自分の掌を見つめた。そこには、あの日海斗から渡された切符の感触が、今も微かに残っているような気がした。
彼は、これからも走り続ける。
過去から未来へ、闇から光へ。
全ての乗客の想いを乗せて、銀色のレールの上を。
(本当の完)