海底駅の最終乗客 第12話「第11章:招かれざる乗客たち」
岬に集まった人々は、誰からともなく語り合い始めた。 それは、これまで誰にも言えなかった、海底に置いてきた悲しみの告白だった。 「私はあの日、夫を置いて逃げたことを、ずっと恥じて生きてきました。でも今、夫が『それでよかったんだ』と言ってくれたような気がするんです。これでやっと、命を大切にできそうです」 「僕は、弟を探すのを諦めてしまった自分を許せなかった。でも、さっき、あいつの笑い声が聞こえたんだ。あいつ、僕のことを応援してくれてるんだなって」 志織もまた、遺族たちの中に混じり、一人ひとりの言葉に耳を傾けていた。彼女はライターとしてではなく、一人の生存者として、彼らの痛みを共有し、癒やし合ってい
岬に集まった人々は、誰からともなく語り合い始めた。
それは、これまで誰にも言えなかった、海底に置いてきた悲しみの告白だった。
「私はあの日、夫を置いて逃げたことを、ずっと恥じて生きてきました。でも今、夫が『それでよかったんだ』と言ってくれたような気がするんです。これでやっと、命を大切にできそうです」
「僕は、弟を探すのを諦めてしまった自分を許せなかった。でも、さっき、あいつの笑い声が聞こえたんだ。あいつ、僕のことを応援してくれてるんだなって」
志織もまた、遺族たちの中に混じり、一人ひとりの言葉に耳を傾けていた。彼女はライターとしてではなく、一人の生存者として、彼らの痛みを共有し、癒やし合っていた。
陸は、その光景を少し離れた場所から見守っていた。
彼の仕事は終わったのだ。
駅員として、最後の乗客を目的地へ届けた。
その目的地は、物理的な場所ではなく、彼らの心が安らげる「現在」という場所だった。
陸は、祖父の真鍮の鍵をポケットから取り出した。
その鍵は、役目を終えたかのように、指先でパラパラと崩れ、砂となって風に舞った。
「じいちゃん。あんたも、これでゆっくり休めるね。もう、誰も待たなくていいんだ」
陸は小さく呟いた。
朝日が岬全体を真っ白に染め上げ、すべてを浄化していく。
海底駅の物語は、ここで終わる。だが、ここから始まる物語が、人々の数だけあるのだ。