海底駅の最終乗客

海底駅の最終乗客 第11話「第10章:最後の夜の決断」

ドォン、という凄まじい爆発音と共に、保守車両は地上の古い駅舎の跡地へと飛び出した。 車両は勢い余って脱線し、草むらの上に横転した。 陸は朦朧とする意識の中で、周囲を見渡した。 そこは、夜明け前の静かな岬だった。潮騒の音が聞こえ、冷たい夜風が火照った体を冷やしてくれる。土の匂い、草の匂い。すべてが、生きている実感を彼に与えた。 「雨宮さん……大丈夫ですか?」 陸が隣を見ると、志織もまた、泥だらけになりながらも起き上がろうとしていた。 「ええ……なんとか。海斗は……海斗はどこ?」 志織が周囲を見渡したが、そこにはもう少年の姿はなかった。ただ、彼女の胸元に、あの貝殻のペンダントが光っていた。 二人が

ドォン、という凄まじい爆発音と共に、保守車両は地上の古い駅舎の跡地へと飛び出した。
 車両は勢い余って脱線し、草むらの上に横転した。
 陸は朦朧とする意識の中で、周囲を見渡した。
 そこは、夜明け前の静かな岬だった。潮騒の音が聞こえ、冷たい夜風が火照った体を冷やしてくれる。土の匂い、草の匂い。すべてが、生きている実感を彼に与えた。
「雨宮さん……大丈夫ですか?」
 陸が隣を見ると、志織もまた、泥だらけになりながらも起き上がろうとしていた。
「ええ……なんとか。海斗は……海斗はどこ?」
 志織が周囲を見渡したが、そこにはもう少年の姿はなかった。ただ、彼女の胸元に、あの貝殻のペンダントが光っていた。
 二人が立ち上がると、背後のトンネルの入り口が轟音と共に崩落し、完全に封鎖された。海底駅《深波》は、名実ともに永遠に失われたのだ。
 陸は掌を開いた。そこには、海斗から渡された切符があった。
 だが、その切符はもう冷たくなかった。地上の朝焼けに照らされ、黄金色に輝いている。
 ふと見ると、岬の公園のベンチに、人影があった。
 一人ではない。十人、二十人……。
 彼らは皆、二十年前の事故の遺族や生存者たちだった。
「あ……」
 志織が息を呑んだ。
 人々は、何かに導かれるように、この場所に集まっていた。彼らの顔には、驚きと、そして言いようのない安堵の表情が浮かんでいた。
「今……海の声が聞こえたんです。懐かしい人の声が」
 一人の老婦人が、陸に歩み寄って言った。
「息子が……『もう大丈夫だよ、お母さん。僕はもう寒くないよ』って。そんな気がして、ここに来ずにはいられませんでした」
 陸は、周囲に漂う光の粒子を見た。それは、海斗と一緒に地上へやってきた、無数の記憶の断片だった。
 それらは今、それぞれの愛する人たちのもとへと帰っていく。
 陸は空を見上げた。東の地平線から、太陽が顔を出し始めていた。
 二十年間にわたる長い夜が、今、ようやく明けようとしていた。