誰もいない選挙の投票箱 第8話「第7章:夜の選挙戦」
午後六時。外は完全に闇に包まれ、霧はいっそう濃くなっていた。街灯の光さえも霧に吸い込まれ、世界が消失してしまったかのようだった。 遥が体育館に戻ると、会場は騒然としていた。フロンティア・テックの男たちが、強引に投票箱を回収しようとしていたのだ。 「投票終了時刻前ですよ! まだ一時間ある! 何をしているんですか!」 佐伯節子が壇上で叫んでいるが、男たちは聞く耳を持たない。 「システムの不具合により、この会場の票はすべて汚染されている可能性があります。整合性が取れない票は、集計の妨げになるだけだ。本社のサーバーで直接解析し、無効化する必要があります」 「嘘をつかないで!」 遥は正面から飛び込んだ。
午後六時。外は完全に闇に包まれ、霧はいっそう濃くなっていた。街灯の光さえも霧に吸い込まれ、世界が消失してしまったかのようだった。
遥が体育館に戻ると、会場は騒然としていた。フロンティア・テックの男たちが、強引に投票箱を回収しようとしていたのだ。
「投票終了時刻前ですよ! まだ一時間ある! 何をしているんですか!」
佐伯節子が壇上で叫んでいるが、男たちは聞く耳を持たない。
「システムの不具合により、この会場の票はすべて汚染されている可能性があります。整合性が取れない票は、集計の妨げになるだけだ。本社のサーバーで直接解析し、無効化する必要があります」
「嘘をつかないで!」
遥は正面から飛び込んだ。手にはパンチカードのケースを抱きしめている。
「あなたたちがやっていることは、住民の抹殺です! お父さんが今、サーバー室で証拠を押さえています! すべての不正は記録されている!」
男たちの動きが一瞬止まった。権藤町長が、群衆をかき分けて前に出た。その顔は、焦燥と怒りで歪んでいた。
「九条君、何を言っているのかね。混乱に乗じてそんなデマを……。その手に持っているゴミを渡しなさい。それは役場の重要備品だ、窃盗罪になるぞ」
「これはゴミじゃない。この町に生きた人たちの意志です! あなたたちが消した名前が、ここには全部残っている!」
遥は佐伯節子に駆け寄り、ケースを手渡した。節子の目が、若々しい鋭さを取り戻して光った。
「よくやりました、遥さん。……皆さん、見ていなさい。これが奥深町の『真実』です。デジタルの嘘を暴く、鉄の言葉です」
節子は壁際の布を一気に引き剥がした。
現れたのは、重厚な鋳鉄製の機械だった。無数のレバーと歯車が組み合わさり、中央にはパンチカードを差し込むための細い溝がある。それは、時計のようでもあり、あるいは巨大な心臓のようでもあった。