鳥籠列車は冬を運ぶ 第3話「第2章:失われる記憶の欠片」
列車が走れば走るほど、事態は悪化していった。 次の停車駅では、子供たちが「冬休み」という概念を理解できず、学校の校庭で呆然と立ち尽くしていた。冬の鳥籠から漏れ出した光は、もはや砂粒ではなく、小さな滝のように床を濡らしている。 「サイラスさん、鳥籠が壊れています! 管理局に緊急通信を入れないと……」 ユノが事務室に駆け込むと、そこには通信機のコードを引き抜いているサイラスの姿があった。 「……何をしているんですか?」 サイラスはゆっくりと振り返った。その手には、管理局の印章が押された古い地図が握られていた。そこには、現在の公式地図には載っていない、真っ赤に塗りつぶされた地域があった。 「管理局は
列車が走れば走るほど、事態は悪化していった。
次の停車駅では、子供たちが「冬休み」という概念を理解できず、学校の校庭で呆然と立ち尽くしていた。冬の鳥籠から漏れ出した光は、もはや砂粒ではなく、小さな滝のように床を濡らしている。
「サイラスさん、鳥籠が壊れています! 管理局に緊急通信を入れないと……」
ユノが事務室に駆け込むと、そこには通信機のコードを引き抜いているサイラスの姿があった。
「……何をしているんですか?」
サイラスはゆっくりと振り返った。その手には、管理局の印章が押された古い地図が握られていた。そこには、現在の公式地図には載っていない、真っ赤に塗りつぶされた地域があった。
「管理局は嘘をついている。この鳥籠は壊れているんじゃない。俺が『開けた』んだ」
ユノは耳を疑った。季節の鳥籠を開放することは、大陸全土の環境バランスを破壊する重大な犯罪だ。
「どうして……そんなことをすれば、世界から冬が消えてしまいます!」
「消えるんじゃない。本来あるべき場所に返しているだけだ。ユノ、あんたは『永久凍結』という言葉を聞いたことがあるか?」
サイラスの言葉は、氷翼号の車輪が刻むリズムよりも重く、ユノの心に突き刺さった。
「管理局は、富裕な都市に春や秋を長く留めるため、その歪みを特定の地域に押し付けている。俺の故郷、リインの村は、三十年もの間、配分ミスという名目で冬を押し付けられ、凍りついたまま放置されているんだ。あそこには、終わらない冬に閉じ込められたままの人間が、今も息を潜めている」