鳥籠列車は冬を運ぶ

鳥籠列車は冬を運ぶ 第4話「第3章:老技師の叛逆」

「だからといって、他の場所の冬を奪っていい理由にはなりません!」 ユノは叫び、サイラスの手から通信機を取り戻そうとした。しかし、老人の力は驚くほど強く、彼女は床に押し戻された。 「甘いな、見習い。奪っているのは管理局の方だ。俺はただ、空になった鳥籠を管理局に突きつけてやりたいだけだ。冬の記憶が消えれば、連中の支配も揺らぐ。季節を独占し、人の記憶まで管理する制度そのものをぶち壊すんだ」 サイラスは貨物室へと向かい、冬の鳥籠の鍵を回した。 その瞬間、貨物室全体が凄まじい銀色の光に包まれた。ユノは光の中に、無数の断片的な映像を見た。誰かが誰かに別れを告げる場面、枯れ葉が土に還る音、そして――かつて自

「だからといって、他の場所の冬を奪っていい理由にはなりません!」
 ユノは叫び、サイラスの手から通信機を取り戻そうとした。しかし、老人の力は驚くほど強く、彼女は床に押し戻された。
「甘いな、見習い。奪っているのは管理局の方だ。俺はただ、空になった鳥籠を管理局に突きつけてやりたいだけだ。冬の記憶が消えれば、連中の支配も揺らぐ。季節を独占し、人の記憶まで管理する制度そのものをぶち壊すんだ」
 サイラスは貨物室へと向かい、冬の鳥籠の鍵を回した。
 その瞬間、貨物室全体が凄まじい銀色の光に包まれた。ユノは光の中に、無数の断片的な映像を見た。誰かが誰かに別れを告げる場面、枯れ葉が土に還る音、そして――かつて自分が、春の熱病で亡くなった母の手を握りしめていた時の、あの凍えるような手の冷たさ。
「……これ、は……」
 鳥籠から溢れ出しているのは、単なる気象データではない。それは、この大陸で生きてきた人々が経験した「終わりの瞬間」の集積だった。
「聞こえるか、ユノ。これが冬の正体だ」
 サイラスの声が、吹雪の咆哮に混じって響く。
「冬は、さよならを言うための季節だ。それがなくなれば、人は悲しむことさえできなくなる。俺の村の連中は、三十年間も悲しむことを許されず、ただ凍りついているんだ。そんな世界に、どんな価値がある?」
 ユノは答えられなかった。彼女の指先は、いつの間にか激しく震えていた。それは恐怖のせいだけではなく、鳥籠から流れ込んでくる膨大な「未練」の熱量に圧倒されていたからだ。
 その時、列車のスピーカーからけたたましい警報音が鳴り響いた。
『緊急警告。氷翼号は現在、予定ルートを逸脱しています。管理局直属の追跡艦が接近中。直ちに停車し、査察を受け入れなさい』
 窓の外、灰色の空を切り裂いて、巨大な飛行艦の影が迫っていた。