夢鉱島のセラピスト

夢鉱島のセラピスト 第4話「第三章」

操舵室の窓は雲海の灰色を引き裂き、鋼と油の匂いが交じった空気を吐き出していた。ミナの手は操縦輪の冷たさを確かめるようにひと拭いし、指先の硬い皮膚を意識した。ずっと昔から、彼女の手は艇を掴むために生まれたのだと、今日も言い聞かせるように自分を落ち着けた。

操舵室の窓は雲海の灰色を引き裂き、鋼と油の匂いが交じった空気を吐き出していた。ミナの手は操縦輪の冷たさを確かめるようにひと拭いし、指先の硬い皮膚を意識した。ずっと昔から、彼女の手は艇を掴むために生まれたのだと、今日も言い聞かせるように自分を落ち着けた。

床板の振動が体に伝わる。機械の低音は、レムが言ったとおり島の呼吸を宿していて、時に不穏な合いの手を差し入れてくる。だが操舵──それだけは、誰の理屈でも数値でも測れない。風の切り方、雲の密度、人の気配。ミナはそういう「見えないもの」を手の内で測ることで習慣的に罪を減らしてきた。操船士として、船は自分だけの目であった。道を知る者には、責任が寄せられる。だから、責任を背負うときも、ミナは誰にも預けなかった。

「ルートは直進のまま。廃棄場まで二時間弱だ」ユノの声が無線越しに響く。彼は機械の向こうでいつもの調律をしているのだろう。レムは、操舵室の端に寄せた小さな椅子に座って、膝の上で記録カードを握りしめていた。彼の顔は疲れているが、まだ子どものような好奇の光が消えていなかった。その視線が、時折ミナに向く。ミナはそれを無視しようとしたが、視線は傷に触れるようにしつこく戻ってくる。

「目視に変える。自動航法オフ」ミナは言った。機械任せにしたくなかった。廃棄夢の搬送はただの仕事ではない。積み荷が「燃料」と呼ばれる前に、そこには誰かの夜が詰まっている。操舵士としての彼女には、その道筋を汚すか守るかの判断を下す義務がある。自分が関わった夜の一つでも、無意味な消耗に回されることは許せなかった。

海面なら、波が音で道を教えてくれる。雲海も然りだ。だが今日は、いつもと違う。窓の向こう、遠方の層が規則正しく脈を打ち、艦のコンパスが一瞬、針を震わせた。ミナは眉を寄せ、機器パネルに手を置く。数値は微細に乱れ、オートパイロットが補正をかけるのを拒んだ。その瞬間、船はほんの少し左に寄り、空気が逆流するように舵が引かれた。

「おい」レムが身を乗り出した。「何か当たったのか?」

ミナは無言でスラストを微調整した。手首の動きは確かだ。だがコースは戻らない。怪我の功名ではない、不穏な外力。操舵室の後ろでユノが咳払いをした。「低音が増してる。ここから南西に、ノイズの大きな結晶群がいる。廃棄夢が集まってるな」

ノイズ。ミナの胸に古い痛みが刺さる。廃棄夢──夢が「廃棄」される場所。自分がかつて操った船は、そう呼ばれる場所の先にいた。彼女は視線を窓の奥に押しつけ、過去の夜に逆戻りするような寒さを感じた。リュネの名前が静かに喉の奥を通り過ぎた。

あの夜のことは、刃物で切った紙屑のように記憶の縁が裂けている。細部は煙のように揺らぎ、残るのは一つの明瞭な真実だけ──命令が下り、彼女がそれに従ったという事実。操船士としての訓練は一つの命令を最短で実行することを要求した。"島を救う"という言葉が前につき、"転送"という手順が後ろにつく。彼女はそれがどういう結果を生むか、そのときは知らなかった。ただ、機械の掲示板に示された座標に向けて舵を切っただけだ。

「ミナ?」レムの声。近い。優しさが含まれているのが、余計に苦しい。ミナは、誰かに触れられると痛む場所を思い出していた。手放したくないものを、誰かに譲る瞬間の鈍い痛み。あのときも似たような感覚だった。彼女は自分が生き延びるために、誰かの時間を切り取って別の場所に流したのかもしれない。だがそれを確かめる術は当時、彼女には与えられていなかった。

「視界に何かある」ユノが言った。ミナは速度を落とし、目を細めて輪郭を探した。屑が雲の中に散らばっている。破片、巻かれた布、ねじれた金属──そして、一瞬、青白い光が揺れた。光は結晶のように淡く、しかし人の形を模して浮かんでいる。ミナは体温を失うのを感じた。胸の中にずっと封じてきた名前が震えたように浮かびかけるが、すぐに引っ込めた。言葉にしてしまえば、何かが崩れる気がした。

レムが立ち上がり、無造作に歩み寄る。「あれ、見えるか? 誰かいる——いや、違う、像みたいだ」

「触るな」ミナの声が冷たく出た。無意識の命令だった。船内に沈黙が落ちる。レムは柔らかく首を傾げた。「なぜ? 救えるかもしれないんだろう?」

「助ける、の意味を取り違えるな」ミナは低く言った。彼の目の中にある憐れみの色が、彼女の傷をかきむしる。彼はまっすぐに彼女を見ていた。救いたい、という欲望がほとばしっていた。ミナはその言葉を聞くたびに、あの夜の命令を反芻した。「分かった。家族を救え」——ならばなおさら、結果をはっきりさせる責任が生まれる。だが彼女は、その責任が自分の掌で燃え広がった過去を抱えたままだった。

「ここで停まる」ミナは操縦を固定し、マイクを取った。「廃棄場へは少し迂回する。視認範囲内で確認したらすぐに動く。だが近づきすぎるな。記録を残させるために最小限の距離を保つ」

「なんで急にそんな慎重に——」レムが言いかけて、言葉を呑んだ。彼はまだ十七だ。真っ直ぐな善意が、彼の行動の底を走っている。ミナはその善意を憎むことはできなかった。だが同時に、自分が抱えている重みを安易に分け与えられることも許せなかった。誰かの痛みを奪ってしまうのは、彼女が一番恐れている結果のはずだった。

船は雲の切れ目を縫い、廃棄夢の集積場に近づいた。そこは物理的なゴミ置き場と同じく、忘却と投棄が混じり合った場所になっていた。結晶の破片が空中を漂い、遠くで低音が反響する。ミナは視覚的な証拠が彼女の記憶を引き裂くのを、冷静に見届けた。そこにあったのは、崩れた採掘塔の一部と、剥がれた鋼板、赤錆の配管。そして、塔の残骸に刻まれた小さな紋章——それは採掘会社の所有印だった。ミナの唇に苦い感覚が芽生えた。

「それが——」ユノがボソリと呟く。「リュネの塔のものだ」

その名で脳裡が締め付けられる。リュネ。故郷。ミナは視線をそらすことができなかった。瓦礫の影に、少女の影がちらりと動いた。青白い結晶が首筋に埋まっているように見えた。人の形だ。人であるはずの輪郭。だがそれは、まるで夢の一部が物質化したかのように不安定で、半透明のまま空気を震わせていた。

レムは息を飲み、無意識にミナの腕を取った。「行くよ。手伝う。潜航してでも——」

「いいや」ミナの返事は即座だった。言葉の刃がレムを押し返す。だがその奥には別の感情が複雑に重なっていた。怒り。恥。そして、何よりも深い、守るべき理由。彼女は、あの光る影が"そこにあってはならないもの"だと直感した。上の者たちがここへ来て、それを燃やし去るつもりなら、ミナはそれを許さない。だが一方で、近づけば自分の過去の断面が露見するかもしれない。その恐れが、彼女を硬直させた。

「分かったふりをするな」ミナは、ふいに声を荒げた。彼女の声が艦内に響き渡る。レムの手が一瞬固まる。彼は目を見開き、言葉を探していた。だがミナは続けた。「お前はまだ、何も知らない。助けたいっていうその気持ちは尊い。だが私の罰をあんたに預けるんじゃない。分かったふりで終わらせるんじゃない。——わかるか?」

沈黙が続いた。レムは何と言えばいいか分からない様子で俯いた