異世界転生風車守の王国騎士

異世界転生風車守の王国騎士 第4話「第3章」

ユズは朝焼けの薄い光の中で、自分のしたいことを一つだけ反芻していた。壊れかけの羽根を抱えた風車の前で、彼は今日も同じことをしたい――村人たちが望む方向へ風を分け、畑の穂を揺らして収穫を守ることだ。しかしその前にはいつも、幾重もの阻害が立ちふさがった。風は消えている。谷を覆う空気は沈黙し、湿って重い。国の徴税隊が動き、近隣から助けが来られない噂が村の縁を曲がる。何よりも、あの微かな亀裂が羽根の縁に残っていた。

ユズは朝焼けの薄い光の中で、自分のしたいことを一つだけ反芻していた。壊れかけの羽根を抱えた風車の前で、彼は今日も同じことをしたい――村人たちが望む方向へ風を分け、畑の穂を揺らして収穫を守ることだ。しかしその前にはいつも、幾重もの阻害が立ちふさがった。風は消えている。谷を覆う空気は沈黙し、湿って重い。国の徴税隊が動き、近隣から助けが来られない噂が村の縁を曲がる。何よりも、あの微かな亀裂が羽根の縁に残っていた。

「ユズさん、お願いがあるんじゃ」――ハルミ婆が、ゆっくりと歩幅を合わせてきた。灰色の髪を後ろでまとめた小柄な老婆は、畑から小さな籠を抱えていた。手にはまだ朝露の匂いが残る小麦の穂。彼女の目はいつになく険しかった。

「何があったんです?」ユズは下りたばかりの梯子につかまりながら答えた。指先に羽根のささくれが触れる。冷たく、木の匂いがした。

「こないだの虫は収まったけれど、穂がちゃんと乾かん。種蒔きの代が逃がしたら、冬に食うものがなくなるんじゃ。うちの孫が頼みに来たんじゃ。ユズさん、あんたが願えば風が一度だけ回るって、あんたが直した羽根はそうなるって聞いたんじゃ。今日、うちのだけでも回してくれんかのう」

村で最初に助けを求めた者の声。ユズの胸は収縮した。彼はあの日、ハルミ婆の家の前に立って、同じ言葉を聞いたときのことを覚えている。あのとき羽根に小さな亀裂が入った。見えないほどの線が、木目に沿って走っただけだと思っていた。しかしそれは、傷の始まりだった。

「一人だけの願いで回すと、羽根が折れるんだ」ユズは言った。声は冷たくならないように押した。「この羽根は、私が整備したものだけがそうなる。条件は……あの、村人が回したいと強く願う方向に一度だけ風を分ける。だけど、一人の願いだけなら――」

「壊れるんか」ハルミ婆は小さく呟いた。籠を抱え直す。その手の震えが、朝の冷気よりもずっと切実に見えた。

ユズは梯子を降り、羽根に触れた。あの亀裂は、朝の光に照らされて鼻先の細い影のように見えたが、確かに広がっている。指先に伝わる振動が、彼の胸に冷たい痛みを走らせた。息を吸うたびに、胸の奥が硬くなる。

「これで全部助けられるなら」とハルミ婆は、肩をすくめたように笑った。「ユズさん、お願いする人が先に来た。それがこの谷の決まりじゃろう。孫の名はトキ。今日の分だけでも――」

トキ。ユズはその名前を聞いて、村の通りの先の小さな家を思い出した。子どもの手のひらほどの籠に入った種。無理に背筋を伸ばした小さな体。助けを求める最初の声は、守る対象をも定める。彼の前にいるのは、まさに最初に助けを求めてきた者だった。

ユズは深く息を吸った。風を分けるには、羽根に触れて自分の意思を重ねる必要がある。条件は明瞭だ。自分で整備した風車であること。村人が回したいと願う方向であること。一度だけ。禁止事項はさらに厳しい。たった一人の願いで回すと、羽根は折れる。代償は自分の呼吸の乱れだ。彼はそれを既に知っていた。あの時の微かな息苦しさは、静かに彼の体に根を張りはじめていた。

「自分で直したってのは、ただの言い伝えなのかもしれんがのう」ハルミ婆は言葉を濁した。「でも、ユズさん、あんたがやってくれるなら……」

ユズは首を振った。青年の手が震えた。困惑が、理性と情動の間で引き裂かれる感覚を生む。彼は村を守ると誓った。だがその誓いは、無制限ではない。守る対象は、危機に置かれた共同体と、最初に助けを求める者たちだ。しかし、守るために自身を壊すならば、守り続けることはできない。ユズは自分の胸の奥で、先にできた小さな虚が大きくなるのを感じた。

「私は――」ユズは言葉をつなごうとした。「――やるよ。但し約束してくれ。これで全部を賄おうなんて思わないこと。今日のことだけ。誰かほかが金を払ってでも、羽根一つで全部を賄うのは無理だってことを、みんなで分かち合ってほしい」

ハルミ婆の目が潤んだ。彼女は短く頷いた。「分かっとる。うちは今日の分だけを頼むんじゃ。トキの穂が濡れると、種がだめになる。ユズさん、頼む」

ユズは梯子によじ登り、羽根の中心に手を当てた。木と金属の接合部は、丁寧に磨かれていた。彼の指先は整備のすべてを覚えている。風車は彼の仕事場であり、彼の身体と手の延長だ。つい先日までの彼なら、修理の匠のように羽根を直し、村人たちに分ける方法を教えただろう。しかし今、時間と現実は彼を追い詰めた。

願いを聞く相手が一人であることの重みを、ユズは改めて噛みしめた。彼は息を一つ、深く吸った。心の中でトキの顔が浮かぶ。芝生の上で転んだ膝、小さな声で「収穫を失いたくない」と言ったあの夜。守るために彼がここにいるのだと再確認する。だが同時に、羽根の亀裂は今や線ではなく、牙のように食い込んでいた。

彼は自分の意思を風車の木の中へ押し込んだ。整備のときと同じように、彼は歯車と風の接点を思い描き、羽根に流れるべき空気の流れを可視化した。ユズの心が願いと同期した瞬間、羽根は湿った沈黙を切って回り始めた。最初はゆっくり、古い油がはじけるような音がした。だが回転はすぐに勢いを帯び、風は畑の方へ向かった。穂が揺れ、露がはじける。ハルミ婆の顔に安堵の色が広がった。

そのとき、木の裂ける音がした。小さく、しかし確信的な破裂。ユズの胸が引き裂かれるように痛んだ。羽根の縁からぱりりと一筋、深い音が走り、そこから木の繊維が剥がれていく。回転の遠心力が、亀裂を一気に広げたのだ。ユズの腕に伝わる振動が、彼の呼吸を狂わせた。

「ユズっ!」ハルミ婆の叫び声が、空気を引き裂いた。だがユズは声を上げられなかった。胸の奥が締めつけられ、息を吸えない。彼は羽根を押さえる手を緩め、体が後ずさった。羽根の先端が、音を立てて割れた。その断面が鋭い光を放って、朝の空気を切り取った。

羽根は折れた。文字通り、一本の羽根が根元から外れ、地面に叩きつけられた。粉塵と木片が舞い、いくつかの粒がユズの頬を打った。風はすぐに鈍くなり、畑を撫でていた空気の流れが詰まり、穂は再び垂れ下がった。村人たちの顔には、瞬間的に感謝と悲嘆が混じった。

胸の奥の痛みは、刺すように深くなった。ユズは膝をついてその場に崩れた。息を吸おうとするたびに、喉が狭くなるようで、空気が喉の奥にひっかかった。汗が額を伝い、目の前が滲む。誰かがユズの肩に手を置いた。温かい手の感触が、彼を現実へ引き戻す。

「しっかりしろ、ユズ!」村の若者の一人、サイが羽根の破片を拾い上げながら叫んだ。彼の表情は青ざめ、しかし動揺の方が先に出ていた。「どうしてあなたが……何か、医者を! 誰か!」

ハルミ婆が躊躇わずに駆け寄った。彼女の顔はしわだらけだが、そこに怒りと哀しみが混じっている。「あんた、言うたはずじゃ。ユズ、あんたが傷むまで一人の願いで回さないって」

ユズは首を振ろうとしたが、それさえ苦痛だった。血の味が口の中に広がる。声を出すと胸が裂けるように痛んだ。彼は瞼の裏に、折れた羽根の黒い線をちらつかせた。自分が守ろうとしたものの代償が、こんな形で現れるとは思わなかった。守るための行為が、守る力そのものを削る。彼は自分の手の震えを感じ