こども王

こども王 第20話「第18章」

議場の扉を押し開けると、生暖かい空気の渦が迎えた。長椅子は超過申し込みの紙で埋まり、床には靴の軋む音と囁き声が重なっている。中央に据えられた台の上には、分厚い額縁の肖像画が低く明かりを浴びていた。絵の中の少年は、輪郭こそ変わらないが、ほほのふくらみが少しだけ削げ、目の向きがうつむきがちになっていた。彼のそばには、ガラスケースに納められた大きすぎる王冠が、冷たい金属の影を落としている。

議場の扉を押し開けると、生暖かい空気の渦が迎えた。長椅子は超過申し込みの紙で埋まり、床には靴の軋む音と囁き声が重なっている。中央に据えられた台の上には、分厚い額縁の肖像画が低く明かりを浴びていた。絵の中の少年は、輪郭こそ変わらないが、ほほのふくらみが少しだけ削げ、目の向きがうつむきがちになっていた。彼のそばには、ガラスケースに納められた大きすぎる王冠が、冷たい金属の影を落としている。

「来てくれてありがとう、みんな」リクは台の上に立ち、声を張った。十歳の身体には似つかわしくない重さが、彼の言葉を粘らせる。晴れやかな演説など用意していない。今したいのは、ただ一つ──子どもたちの言葉を聴かせること。大人たちが茶化したり、制度という名の言い訳で黙らせたりする前に、ここで子ども自身が何を思っているのかを、等しく聞かせたいのだ。

「私は進行役として中立を保ちます。ここで話すことは、私の王令にはしません。使える状況はあるとわかっていますが、今は──対話で合意を作ることを優先します」

すぐ隣に控えた教師長のセラが頷いた。眉間に刻まれた疲労と決意が、一緒にここまでやってきた日々を語る。彼女は今日、子ども代表の証言を整理し、文書の真正性を確かめるための筆跡比較の係も担っている。向かいには、城下の学校から選ばれた子ども代表のミナが、小さな手に紙を握りしめて立っていた。ミナの字は傾き、小さな丸い文字でぎゅうぎゅうに詰まっている。「戦争に行きたくない」と、彼女が自分で書いたそのメモは、前の章からここに持ち込まれた証拠の一つだった。

「リク王子」と大柄な男の声が階段の方から響いた。グレイの側近の一人だ。彼の姿が見えた瞬間、ホールの空気は一層冷たく締まる。側近はにやりと笑い、手に紙束を広げて見せた。「こちらにも新しい証拠がある。子どもの手で書かれた『戦争宣言』の写し——城下のための訓練は必要だと示す文だ。これは、こちらの側の子どもたちも同意していることを示している」

その言葉に、ざわめきが走った。ミナは小さく震え、紙をぎゅっと指で潰す。セラがすっと前に出て、冷静に応じる。「コピーではなく原本を見せてください。筆跡の一致を調べます。ここは公開の場です、偽造が疑われているのなら裁定を求めます」

側近は鼻で笑い、しかし手のうちを見せるわけにはいかないとわかってか、表情を引き締めた。外の廊下からは、兵の足音が遠くで刻々と接近する気配が伝わる。グレイが直に来ないままでも、その影は十分に重かった。リクは自分が王であることの象徴——肖像画と王冠が示す押しつけがましさ——に、居心地の悪さを覚えた。あの絵もあの冠も、誰かの手で若い命を秤にかける道具として利用されかねない。

「ミナ、君の紙をここに出して読んでくれ」リクは台の端に座り、ミナの肩にそっと手を置いた。触れられた手は小さく跳ね、彼女は深呼吸を一つしてから紙を広げた。声は震え、しかし言葉ははっきりしていた。

「ぼくたち、こどもは、だれも戦いに行きたくない。おとなが決めるのは、だめです。だって、わたしたちはまだ、学校で学ぶことがあるから——」

その一言一言が、議場の空気を切り裂いた。かつてリクが児童相談員だった頃に聞いた言葉と同じ鋭さがそこにあった。大人の声は黙りがちになり、子どもたちの生々しい恐怖が席を埋める。誰かがすすり泣く音。セラの目に光が宿る。

「子ども自身の言葉を、子ども自身に語らせること」──それはリクが最初から貫いた方針だ。能力があれば、彼は一日の王令で子どもたちを守ることができる。しかしその度に、自分の時間を一日、奪う。さらに、願いを誘導すれば王令は暴走するという条理もある。ここで誰かの答えをねじ曲げて出すことは、子どもたちの声を取り替えることであり、彼が最も許せないことだった。

「リク王子、君は王である以上、即時に介入する責任があるのではないか」――討論の途中で、ある地主の一人が憤慨混じりに声を上げる。彼は自分の家の息子が兵役に取られることを恐れており、早急な対応を求める。声は正義感に満ちて聞こえても、同時に自分を守るための叫びでもある。

「私たちは、子どもの言葉を尊重しながら、大人が責任をとる方法を探す」とリクは応じた。「それが私のやるべきことです。王令で一時的に救うことはできます。けれどもそれは、痛みを私一人に押し付けることで終わる。ここで本当に必要なのは、皆が話して、対等に合意することです」

だが言葉だけでは界壁は薄い。グレイの側近は立ち上がり、妨害の小道具を持ち出した。彼は子どもが書いたと称する別の紙を示し、それは確かに「戦争に行きます」といった内容を含んでいるという。場内が再び混乱する。どちらの紙が本物か、どの子が本当に書いたのか──真実は判定を必要とする。

「筆跡鑑定を行う」とセラが静かに言った。「ここでの争点は、子どもの意思がどのように扱われてきたかということです。もし偽装されているなら、誰かが子どもを道具にした証拠になります」

リクは胸の中に冷たいものを感じた。自分の肖像画。あれは彼が王令を行使するたびに、少しずつ変わっていく。最初は気づかれなかった変化も、今では誰の目にも明らかなものになっている。あの絵をここに置いておくことは、自らの代償を提示することにもなる。だが同時に、その絵が誰かに「使いどころ」を示唆してしまうのではないかと恐れもする。

「リク王子の肖像を公にするのは、いい判断だ」──議場の片隅で、年配の商人が言った。「あの絵を見れば、王がどれだけこの問題に身を削ってきたかがわかる」

だが、その言葉の背後にある思惑を、リクは嗅ぎ取った。誰かを感涙させるために犠牲を見せることは、相手にとって有利なカードになる。彼はわざとゆっくりと反論した。「代償は私のものです。けれど、それを見せることで大人が免罪符にしないでください。私の年が一日進むことをもって、責任を逃れないでほしい」

討論は進んだ。子どもたちが次々に立ち、学校での恐怖や家での会話、眠れない夜のことを自分の言葉で語った。話すたびに父親や母親が顔を伏せる。ある男が、子どもが兵役に取られる前の夜に父親が泣いていたと証言し、それが人々の胸を刺した。ミナは震えながらも最後にこう付け加えた。「わたしたちは、決めることはできない。でも、決められるようになるまで、話を続けたい」

一方で、グレイの側近たちは事務的に抗弁を続け、制度の不可避性、国の安全の必要性を説いた。彼らの言葉は冷たく、数列の論理で人命を測ろうとした。リクはそのたびに、かつて彼が児童相談員として聞いた、制度に押しつぶされた家族の声を思い出した。即時の介入が欲しい。だが今この場で彼が使うべき手段は何か──それを見誤ってはならない。王令は救いにもなるが、同時に誘惑と強制の道具にもなりうる。

議会の片隅で、ある女性議員が手を挙げた。彼女は目を赤くしながらも冷静な口調で言った。「我々は、子ども自身の言葉を公式記録に残す制度を確立すべきです。書面化され、保管され、どの大人も捏造できないように。今日はその草案を討議するための公開討論です」

その提案に、小さな拍手が起きる。リクは即座に賛意を示した。「その草案