こども王

こども王 第19話「第17章」

馬車のはねが石畳を噛むたび、リクは舌先でふと顔の横に貼られた小さな肖像画のガラスを確かめた。絵の中の自分は、ほんの少しだけ頬の線がとがっている。昨日より深い。指先が触れると、ひんやりとした硝子の冷たさだけが現実だったが、彼の胸は冷たくも熱かった。

馬車のはねが石畳を噛むたび、リクは舌先でふと顔の横に貼られた小さな肖像画のガラスを確かめた。絵の中の自分は、ほんの少しだけ頬の線がとがっている。昨日より深い。指先が触れると、ひんやりとした硝子の冷たさだけが現実だったが、彼の胸は冷たくも熱かった。

「次の曲がり角で隠れろって、また兵士か?」と、後ろに座る教師のマルタが声を落とす。彼女は眉を寄せ、荷物の縛り目をきつくし直した。十人ほどの子どもたちが毛布にくるまって、低い声で寝息をたてている。窓の外には、夜でも行き交う巡視の明かりがちらついた。

「兵士はいる。だが今、もっと警戒すべきは――情報の流れだ」リクは小さく返した。彼の手は自然に車内の箱へ伸びる。そこに、昨夜見つけた紙片が入っている。地図の端に記された赤い印。そのすぐそばに、薄く折り畳まれた小箱を思い出すと、心の中で何かがきしんだ。

マルタはため息をつき、馬車の布を少し持ち上げて外を覗った。「ここでは庶民の顔はよく見える。封鎖や捜索の知らせも回る。あなたが考える公開、リク殿下――今ならまだ、危険は子どもたちの前にある」

「わかってる」リクは短く答えた。彼は十歳の王子であると同時に、遠い世界で学んだ書類の読み方を身体に覚えていた。人が本音を隠すとき、必ず痕跡が残る。書面、押印、渡された物。隠蔽をする者は、往々にして整理を怠るからだ。

「ユノ、地図を持ってきてくれ」小さな声。子ども代表のユノはふわりと起き上がり、毛布をはねのけて手渡した。ユノの眼差しは眠気より一点の覚悟が強かった。彼は八歳。リクより年下だ。いつだって彼の言葉は短く、しかし力を持っていた。

ユノが差し出した紙を広げると、月明かりが海のように刷けた墨の線を滑り、曲がりくねった道や城門、石橋の姿が浮かび上がった。赤の点線が、城下の幾つかの学区と、見覚えのある小さな宿舎を結んでいる。そこには小さな数字が添えられ、いくつかは消えかけていた。

「あの印……今までの徴募が行われた場所だ」マルタが息を吞む。声が震える。地図の隅には、鉛筆で斜めに書かれた日付と、見慣れない記号が重なっていた。記号は、リクが過去に見たことのある肖像画の額縁の端に刻まれている刻印と一致していた。

リクの胃が冷たく沈む。肖像画の額縁にあった小さな(でも確かな)刻印。彼は昨夜、その刻印の意味を考えていた。王室の工匠が使う印章か、あるいは年齢を刻むための目印なのか。だが今、地図の同じ印が、徴募の痕跡と重なっている――偶然とは言えない。

「この地図は、どこで?」とリクが問うと、マルタは俯いた。「屋敷の書庫。移送の途中で雨宿りした廃屋の戸棚に、古い箱が落ちていて。中に手紙と一緒に入っていたの。封は破られていたわ」

ユノが指で折り目を撫でる。「手紙、読めるか?」彼の声にはいつも冷静さがある。檀上での発言を許される年齢よりも、小さな手で得た責任のほうが大きいように見える。

マルタはうなずいて、ゆっくりと一枚の封を開いた。古い羊皮紙の匂いが静かに広がる。文字は斜めに走り、何度か上書きがされている。筆致は荒く、時折涙でにじんだような痕があった。

「──ここに記されているのは、年を '刻む' 装置の使い方です。私が作った、戦時のためにと望まれて」声が、読み上げた者の震えで途切れた。読んだのは、エイガという名の学者だ。彼は城外の小さな研究所を追われ、リクたちの仲間になった学者である。白髪に似合わぬ柔らかな目が、今は緊張で硬い。

「『刻む』……って、どういう?」ユノが首をかしげる。子どもの言葉には残酷さの輪郭がまだ届かない。

エイガは手を震わせてページを押さえる。「ここには『年を移す』とか『年輪』とか書かれている。技術的なことは専門外だが、どうやら人の生年を操作するための『符』を組み合わせる術の図面がある。戦時に足りない兵力を補うために、若い者の年齢情報を改竄し、徴募の基準に引っ掛ける。そうすれば、本来は徴募から外れる年齢でも、強制的に『適齢』として扱える――と」

リクの胸がぎゅっと締め付けられる。昔、彼が担当したケースで、何度も保護を優先しつつも書類の一行に阻まれた家庭を思い出した。書類が人を動かす。数字が人の人生を押し流す。ここでは、それが文字通り人の"年"を変える手段として用いられているらしい。

「文書の末尾に、製作者の名があるか?」リクは静かに言った。自分の声をできるだけ平穏に保とうとする。平常性を保つことが、子どもたちの不安を減らすのだと知っていた。

「『カルム・フォン・ユール』とある」エイガが答える。彼はページの隅に押された小さな署名を指差した。「この人物は王室の工匠の一人。だが手紙の内容は、後年の反省と謝罪のように読める。『間違いだった』、と繰り返す箇所がある。使い方を深く知っている者の筆跡だ」

誰もが息を飲んだ。カルムという名は、噂の中でしか聞いたことがなかった。王室に深く関与し、戦時中に不自然な年齢差を生んだ技術者。もし彼の手紙が本物なら、王室システム全体の齟齬を示す証拠となる。

「だが、どうしてこんな所に」マルタがつぶやく。「書庫に、なんて」

「隠したんだろう」ユノが言う。「誰かが怖くなって、でも言えなくて。ここに置いた。戻されることを期待して。消されるほど危険なものを、誰かが預けた――そうじゃなきゃ、普通は燃やす」

リクは外の暗闇を見つめながら、頭の端で肖像画の額縁を結びつけた。肖像は「年を一日進める」という彼の能力の代償を映し出すだけでなく、王族の年齢にまつわる標章が刻まれてきた。もし昔から"年"が操作され、制度的に利用されてきたのだとしたら――彼の今までの苦しみは単独の悲劇ではなく、設計された歪みの一端なのかもしれない。

「我々はこれをどう使う?」とエイガが問いかける。学者は証拠よりも論理を、論理よりも手段を求める。彼は真実の公開がどう政治を動かすかを計算する顔をしていた。

「公開する」ユノが即座に返した。「人々に知ってもらう。隠されていたことを。子どもが道具にされた事実を」

「公開は危険だ」マルタが反対する。「あなたはそれを望むかもしれないけれど、今ここでそれを広めれば、我々を追う者たちの目に触れる。追手は子どもたちを盾にする。報復は往々にして弱い者のところに行く」

リクは口を閉ざす。彼の内面で二つの声が衝突した。一方は児童たちを守るために迅速に真実を掴ませ、社会を変えることを望む旧い職務の衝動。もう一方は、今の状況で軽率な暴露が子どもたちをさらすと知る現実主義。

「私には時間がない」と彼は小さく言った。言葉は周囲を押しやり、誰もが注目する。「だが、だからこそ無鉄砲には動けない。手紙と地図は証拠だ。私たちはこれを整理して、公開のための準備をする。計画を立て、避難経路を整え、公開後に生じる反撃を想定しておく。偶然でなく、力を持った証拠として出す」

マルタは渋る顔を見せたが、指先が地図を撫でるときのその指先に温度が戻った。「あなたがそう決めるなら、私も従う。ただ、まずはこの子らを安全に――」

「それは変わらない」リクは頷いた。「情報を公開するための準備は、子どもの安全を確保してこそ正当化される。今日の夜、こ