こども王 第12話「第11章」
光の届きにくい保管庫の扉が、古い鉄の軋みを残して閉じた。ろうそくの炎が揺れるたび、壁にかけられた大きな肖像画が少しだけ影を伸ばす。リクはその肖像画を見つめながら、指先で額縁のほこりを拭った。額縁の木目に沿って、小さな亀裂がある。ここ数週間で何度目かの亀裂だと思うと、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
光の届きにくい保管庫の扉が、古い鉄の軋みを残して閉じた。ろうそくの炎が揺れるたび、壁にかけられた大きな肖像画が少しだけ影を伸ばす。リクはその肖像画を見つめながら、指先で額縁のほこりを拭った。額縁の木目に沿って、小さな亀裂がある。ここ数週間で何度目かの亀裂だと思うと、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「公開する。今日中に、市場の広場で市民への説明をする。証拠を隠しておく理由は何もないよ、もう。」リクは短く言った。声は冷静に努めていたが、瞳は熱を帯びている。
「王が直接動くのは危険だ」と沙良が囁く。城下で教壇に立っていた頃の柔らかな物腰ではなく、法廷で戦う弁護士のように目を細めている。沙良は胸元の小さな箱を開け、そこに入れてあった薄紙を差し出した。薄紙の端に、幼い手の不揃いな字がある。丸っこく、左右にぶれた「しんでんがい」という文字。リクが最初に見つけたあの書き付けと同じ筆跡だ。
「これが、最初に見つかったコピーと同じ筆跡だと確かめている」とルーカスが言った。彼は王府の記録課に勤める若い書記で、細かい観察眼と冷静な手つきが武器だ。机の上には、古ぼけた帳簿、封蝋の残る封筒、擦れて読めなくなった判子の跡が並んでいる。ルーカスの指先が紙の繊維をなぞるたびに、ほのかな紙の匂いが立ち上った。
「一枚の写しだけじゃ偶然でも済ませられる。だが、同じ丸文字で書かれた注記が三箇所にある。年次の集計欄、募集人数の欄、そして山間部への転送命令の裏書。全部、子どもの字だ」ルーカスの声は低い。彼の言葉の重さが、部屋の空気を締める。
リクは薄紙をもう一度受け取り、視線を自分の手に戻した。指先に残る微かなざらつきは、先週使った王令の代償が皮膚に刻んだわずかなしわの感触のように思えた。使うたびに少しだけ年をとる。それは文字通り、顔の線となって現れている。右頬の輪郭が少し引き締まり、額に一本小さな横皺が増えた。肖像画の顔はあの頃より少しだけ老けた目でこちらを見返しているように見えた。
「誘導はさせない」とリクは言った。自分の内側に忍び寄る短絡的な誘惑を抑えるための言葉でもある。彼が持つ王令の性質は、ここで正確にしておかなければならない。自分より年下の者が、自らの意志で選んだ願いだけを一日限りの王令として成立させる。だが、その願いを誘導しようとしたり、無理に選ばせようとする思惑が混じれば王令は暴走する。しかも使うたびに自分の年齢が一日進む——それを忘れてはならない。
「グレイが表に出回る前に、ここで証拠を束ねる。公にする。——でも、どうするつもりだ、リク殿? ただ広場で紙をばら撒くわけにもいかない」沙良の視線は真剣だ。彼女は子どもたちの声を広場で取りまとめる術を知っているが、公職を巻き込むには用心深さが必要だ。
リクは肖像画の額縁を軽く叩いた。音が木を震わせ、遠くの扉から誰かが足を踏み入れる音がした。扉の向こうで小さな子どもの笑い声が聞こえ、自分が守る対象を思い出す。城下の学校の教室に座る小さな背中。夜に一人で外に出られなかったあの子。リクはその顔が実在することを、誰かの台詞に頼らずに証明したかった。
「まずはアーカイブの改竄の証拠を固める」とルーカスが続ける。「この筆跡だけじゃ決定打にならない。筆跡の成り立ち、紙の製造年代、封蝋の混合物、これらをすべてそろえて照合する。……そして、証人だ。ここで働いていた老人たちや、当時の書記に声をかける。我々は物証と証言の両方が必要だ」
ルーカスの言葉に沙良がうなずいた。「説得は、市民の良識に訴える形でしか効かない。狼煙のように、隠されていた事実がただあらわれれば、力を持つ者も動かざるを得なくなる。ただし——」彼女はわざと口を切った。「グレイが動けば、証拠は消される。あるいは、証人が口をつぐまされる。だから早く市民の前に出すべきだ」
「だが、そのために僕が王として動くと、相手は『王権の乱用』を言い立てる。グレイの手下は法の穴を突いて、我々の正当性を貶めるだろう。……そうなる前に、どうにかしないと」リクの胸の中で、小さな恐れが踊る。自分が王であるという事実は、反面で盾にも槍にもなる。だが同時に標的にもなった。
「リク殿には、会そのものの司会をしてもらう。その場を中立の場にする。王が一方的に命じるのではなく、市民と子どもたちが向き合って話し合う。あなたは最後まで中立を守ると誓うこと。あなたの誓約が、ここでは一番の力になる」沙良の提案は相手を味方につけるための策略だった。リクはそれを飲み込むと、ゆっくりとうなずいた。
「分かった。僕は司会をする。だが、もし証拠が消されそうになったら……その時はどうする?」
ルーカスは薄く笑ってから言った。「その時は、我々が先に動く。物証を広場に持ち出す。子どもたちの書いたメッセージを、そのまま掲げる。写しではなく原本を。筆跡比対の専門家と一緒に庁舎に入り、公開鑑定をやる。人々が目にする前に隠し去ることはできない」
リクはゆっくりと息を吸った。心のどこかで、即効性を求める欲望がうずく。彼の能力なら、子どもたちの一つの願いを一日限りの法令にできる。もし彼らが「記録の改竄を白日に曝してほしい」と願えば、一日だけでもそれを強制することができる——だが誘導してはならない。自らの意思で選ばれた願いでなければならない。誰かをそそのかすだけで王令は暴走し、過去の例のように意図せぬ歪みを生む可能性がある。さらに、使うたびに自分は一日年を取る。肖像画が示す通り、代償は確かな形で返ってくる。
「それに、子どもたちに『これを願え』と言うわけにはいかない。彼らの声を利用することになる」リクは静かに言った。沙良の目に小さな涙が浮いているのが見えた。
「正しい。君の力は最後の切り札だ。できるなら使わないで済ませたい」沙良はそう言うと、そっと薄紙をリクに渡した。「この字を、市の証拠として掲げる。子どもの字で書かれた『戦役同意書』。それが歴史の中でどんな位置を占めているか、我々はこれから明らかにする」
薄紙の上には、子どもの書いた短い文がある。「だれもころさないでください。たすけて」その言葉が紙の上で寄り添っているだけで、リクの胸を刺した。文字には躊躇と急ぎが混ざっていて、何かに追い立てられた筆跡が見える。丸い字のループは強調され、点の一つ一つが祈りのように丸められていた。
「この文字が、過去に何度も用いられた形跡がある」とルーカスが言って、縦長の帳簿を指さした。その帳簿の縁に、小さな子どもの字で記された所見が列挙されている。徴募の数が書かれ、年端もいかない土地からの徴発が記されている。改ざんの痕跡は、ほかに鍵のかかった箱の中から見つかった封単の裏にも残っていた。封蝋には王室の紋章が薄く残っており、その下に添えられた走り書きは子どもの丸文字だった。
「これは……どうしてこんなことが?」沙良が自分の顔を覆う。彼女の靴のかかとが床の冷たさを伝える。
「誰かが、意図的に子どもの文字を偽造して、徴募が子どもたちの意思だと見せかけたんだ。……だが、誰が?」リクは問う。問いは実際の作業へと向かわせる。目の前の謎を解くために、彼らはさらに深く保管庫の中へと入り込んだ。