こども王

こども王 第11話「第10章」

朝の鈍色の光が校庭の砂を薄く撫でていた。リクは腕を組み、滑り台の横に置かれた小さな丸椅子に座っている。今、彼がしたいことは一つだけだった——あの紙の出所を突き止めること。あの「子どもの字で書かれた戦争宣言」がどこから来たのか、誰が、誰のために子どもの文字をでっち上げたのかを、はっきりさせたい。

朝の鈍色の光が校庭の砂を薄く撫でていた。リクは腕を組み、滑り台の横に置かれた小さな丸椅子に座っている。今、彼がしたいことは一つだけだった——あの紙の出所を突き止めること。あの「子どもの字で書かれた戦争宣言」がどこから来たのか、誰が、誰のために子どもの文字をでっち上げたのかを、はっきりさせたい。

「王子さま、来たよ」

教室の窓から顔を出したのは佐倉ミサキ先生だった。五つ編みが揺れて、息をついた子どものように元気な声が校舎に跳ね返る。彼女は肩越しに巻かれた紙束を抱えていた。その先頭を飾るのはコピー紙の一枚。グレイが別の地区で見せたという、あのコピーと同じものだとリクは知った。

「誰か持ってきたのか?」

「ええ。駅前で、おばあさんがこれを見せて周っていたって。あの偽の文書の写しよ。『これを見たら、兵を出せって子どもが自ら望んだって書いてあるじゃないか』って、みんな驚いてた。グレイ側が撒いてるらしいわ。こわがってるお母さんたちもいる」

リクは紙を受け取り、視線を落とした。黒く太い「戦」の一文字、踊るような丸文字の「子ども」。まるでどこかの誰かが、子どもに書かせたように見せかけるために、わざとぎこちない線をなぞったような文字だった。リクはその文字の輪郭を指先で辿る。指先に伝わる感覚はなかったが、頭の中には昔の職場で見た数え切れない相談記録の紙がよみがえる。どれも個性があって、誰の字かはおおよそ見当がつく。けれどこの紙は、人の癖を真似た“模造品”の匂いが強かった。

「で、どうする、王子さま?」

ミサキ先生が問いかける。彼女の声には躊躇が含まれていた。学校にこだまする不安や、保護者たちの動揺、そしてグレイの影響力——大人たちの判断が子どもを危険にさらす可能性が高まっている。このまま放置すれば、誰かが本当に動かされるかもしれない。

リクは深く息を吸った。朝の空気が胸に染みる。彼は十歳の王子で、同時にかつて児童相談員だった自分を覚えている者だ。守るべき対象はここにいる。教室の机に揃って顔を上げた子どもたちの横顔、ミサキ先生の強いまなざし、そして自分より年下で、まだ何も失っていない子どもたち。

「調べよう。学校でできることから始める。文書の写しと、本物の子どもの字を比べる。誰がその紙を配っているのか、どこで印刷されたのか。記録室にも行こう。古い書類には、同じ癖が残っているかもしれない」

言い切った瞬間、数人の子どもが手を挙げた。ハルは顔を赤らめて前に出る。彼は年齢が微妙にリクより上か同じぐらいだが、議論の場で言葉を選べる少年だった。だが今回、リクは意図を誤解されないように、先に言葉を添えた。

「みんな、自分の字で書いてほしい。自分が何を思ったか、どう感じたかを、子ども自身の言葉で聞きたいんだ。誰かが代わりに書いた物語じゃなくて。」

アキトがさっそく言う。「じゃあ、王子さま、リクは願いを使って出どころを見つけられるんじゃないの? 一日で元をたどれるなら楽だよ」

その名前に反応して、何人かが顔を見合わせた。アキトは九歳で、リクより一つ年下だ。アキトはいつも大胆だが、今回は無邪気さの陰に深刻さが見えた。彼らの目はリクに期待を寄せている。能力を持つ者として、王として、彼が一瞬で困難を解決できるはずだと思っているからだ。

リクの胸がぎゅっとなった。目の前には「使えば一日で解決できる」という手段がある。しかしルールはいつだって一枚の縛り布のように重い。自分より年下の者が「自分の意志で選んだ願い」だけが一日王令になる——それは救いにもなるが、誘導は厳禁だ。誰かの願いを誘導すれば王令は暴走する。さらに、使うたびに自分の年齢が一日だけ進む。小さな数字の進行が、リクという存在の時間を確実に削ることになる。

「できるなら、それを使ってしまいたい」とミサキ先生が低くつぶやく。「でも、リスクが大きすぎる。リクが一日年を取るだけじゃない。願いを仕向けられた子どもが、あとで傷つくかもしれない。利用されたって思うかもしれない」

「それに、誘導すれば事態が制御できなくなる」とリクは付け足す。「あの紙の出所を暴くために、子どもを道具にはできない。僕はそれをもう知っている。だから、僕ら自身で証拠を集めるんだ。自分たちの言葉で。自分たちの手で。」

言葉は静かだったが、そこに確かな重みがあった。子どもたちの眼差しが変わり、ハルが拳を握りしめた。ミサキ先生は微笑んでみせ、紙束の端を掲げた。

「まずはこれを起点に。コピーの余白に、印刷屋のスタンプがあれば分かる。届いた場所の順番も調べる。誰がこの写しを配っているか追えば、出所に近づけるはずよ。図書室の古い日誌から、子どもたちが本当に書いたもののサンプルを集めよう」

小さな会議が始まった。役割が決まる。ミサキ先生は連絡係になり、外の大人とのやり取りを引き受ける。ハルは聞き取り担当で、近所の年長の子たちや、駅で文書を見せて回っていたというおばあさんに話を聞く。アキトとサラ、エイナは校内の手書きサンプルを集める。リクは校舎裏の記録室への立ち入り申請をまとめるつもりだったが、扉の外で足が止まる。

「申請が通らなかったら?」

ミサキ先生が肩をすくめる。「グレイの影響で、出入りを制限されるかもしれない。でも、記録室には古い出納簿や、儀礼に関する文書があるはずよ。誰かが子どもの字を真似したなら、そこに端緒が残っているかもしれない」

「行けるところから行こう」リクは言って、紙束を胸に抱えた。彼は王子だ。けれど今、王子らしい威厳よりも、児童相談員としての直観が勝る。記録の端々に残る小さな矛盾——忘れられた付箋、消された日付、ページの擦り切れ——それらが真実を示すことを、彼は知っていた。

校舎の奥、図書室は午前の授業のざわめきから切り離された静けさを保っていた。埃の匂い、本の背の硬さ。アキトが小さな箱を抱えてきて、子どもたちの字が詰まった紙片を次々に並べる。お誕生日カード、読書感想文、運動会の出欠表、落書き帳の切れ端。それぞれの字には癖がある。丸い「る」を丸く書く子、縦の線に勢いがある子、横線の先を跳ねる子。リクは目を細め、細部を追う。

「ここの『戦』の書き方はどう?」ハルが指を差す。彼が指したのは、図書室にあった三年前の作文のページだった。筆圧の強弱、払いの角度、字の“余白”まで似ている箇所があった。だが完全に一致しない。コピーの「戦」は、どことなく不自然な角度を保っている。誰かが意図的に、子どもの不揃いさを写しているような歪さがある。

「そうね……似ている箇所はある。でも、これは本物の子どもの字よ。無理に真似た字では出せない自然な揺らぎがある」

エイナが目を丸くして立ち上がる。「でも、コピーの字と同じ『ちょっと変な書き方』をしてるじゃない。もしかして誰かが本物の紙を集めて、その癖を組み合わせたのかも」

「それが狙いだ」とリクは言った。「誰かが本物の字を分解して組み立て直し、偽の『子どもの願い』を作った。名前は書かれていない。だから責任の所在も曖昧になる」

調査は小さな糸口を集める作業だった。ミサキ先生が近所の保育所から借りてきた名簿。駅前の商店の申し送りノート。校