こども王

こども王 第10話「第9章」

朝の光が薄く差し込む城下の会議室で、リクは短く息を吐いた。今日したいことは明確だった――子どもたちに説明する。使った王令の代償を、隠さずに示す。妨げるのは、噂と恐れと政治的計算だ。そして守る対象は、目の前にいる小さな群れだった。校長のマドカ、学区の代表になったミナ、そして護衛兼補佐のルーカス。彼らはそれぞれ違う声を持ち、勝手に動く人間だった。それが、リクの望みでもある。

朝の光が薄く差し込む城下の会議室で、リクは短く息を吐いた。今日したいことは明確だった――子どもたちに説明する。使った王令の代償を、隠さずに示す。妨げるのは、噂と恐れと政治的計算だ。そして守る対象は、目の前にいる小さな群れだった。校長のマドカ、学区の代表になったミナ、そして護衛兼補佐のルーカス。彼らはそれぞれ違う声を持ち、勝手に動く人間だった。それが、リクの望みでもある。

「リク様、本当に公表するのですか」ルーカスが窓の外へ視線を向けながら言う。声に冷静さが滲む。彼は王府の事情にも長け、外部の圧力がどう動くかをいつも先読みしていた。

「隠したら後で、もっと大きな嘘になる」とリクは答えた。言葉は小さかったが、揺るぎはなかった。マドカが頷き、ミナは手の甲で汗を拭った。子ども代表としてここに座るミナは、まだ十歳にも満たないが、目だけは大人顔負けに真っ直ぐだった。

「子どもたちから自分で出てきた願いで、昨日一日、徴募を止めました」とリクは続ける。声が一瞬詰まり、彼は自分の手元にある小さな紙片に視線を落とした。それは先日、学校でミナたちが自分の字で書いた願いを集めたうちの一枚だった。字はぎこちなく、ところどころ横線が揺れている。だからこそ真っ直ぐだった。

「願いは、みんな自分で書いたんだ。誰かに言わされたり、脅されたりしていない。だから効力が出た。代わりに――」リクは言葉を切る。代償を口にする瞬間、会議室の空気が濡れた布のように重くなる。

マドカが息を飲む。「リク様は――」

「年を一日、失います」リクは言った。説明の余地はもう無かった。自分の声の固さを知りながら、彼は続ける。「昨日、私の年齢は一日だけ進みました。身体にも、肖像画にも、あとで見てもらえばわかります」

ルーカスがふと下を向き、胸に手を当てた。冷えた汗が首筋を伝う。ミナは小さく「なにが失われるの?」と尋ねた。子どもの質問はいつも容赦がない。

リクは考える。子どもの頃の記憶と、児童相談員として見てきた現実が交差する場所で答えを探す。「――失うのは、時間の一片だ。僕が、今まで感じて、学んだものの蓄えから一日が消える。今日は昨日より少しだけ大人になる。声や歩き方に出ることもある」

マドカがテーブルに拳をついた。「それでも、隠されるよりはいい。人は嘘に慣れてしまうから。告げられた真実の方が、責任を動かす」

「でも、それを知った相手が利用するかもしれない」とルーカス。「グレイ宰相が知ったら、リク様をどう扱うか――」

リクは、ひどく冷たい思考が頭を掠めるのを抑えた。宰相グレイの顔は浮かばせまい。代わりに、今日は子どもたちの前だ。彼が昨日の夜、どのようにして王令を行使したかを語る必要はない。ただ、二つのことだけは明確にしなければならない。まず王令を使う時の条件。次に、その代償が誰のものでもないということ。

「ここで、決めましょう」リクが声を上げた。「王令を使った日は、公開します。王府の肖像画は毎日一枚ずつ更新される。今日から、その進行の記録を城下に置きます。誰でも見られるようにする。二つ目――王令として成立する願いは、僕より年下の者が、自分の手で書いたものに限る。誰かが代筆したものや、大人の言葉に導かれたものは認めません」

「導いたら暴走するって言ってたね」とミナが言う。言葉の端に、子どもらしい怖さが滲む。

「うん」リクは頷いた。「誘導された願いは王令を狂わせる。法律のように扱ってしまえば、破壊的になる。だから、願いの手続きも決める。子ども自身が書いた願いは、特別な箱に入れてもらう。開けるのは僕一人ではなく、子ども代表と教師、そして町の公証人の前で。箱の中身は公開され、写しは議事録として残す。誰がいうか、どんな言葉で望んだのか、消えないように記録する。大人の言葉で芽生えたものは、効力を生まない」

会議室の壁に飾られた、あの大きすぎる王冠の絵が、その場に無言の警鐘を鳴らした。誰もがその象徴を知っている。冠は、王の意思が過剰に見える時、実体以上の力を与えてしまう。リクはその冠をいつも意識していた。背負うだけでなく、誰かに利用されることを恐れていた。

「王令使用簿をつけよう」マドカが言い出す。「そこの一ページに使用日と願いの要旨、書いた子の名前と年齢、そして証人の署名を残す。読み上げた時の録音も。透明にしておけば、隠しようがない。隠すより速いのよ、みんなの心を閉じさせる前に」

「そして、違反した大人には罰則を」ルーカスが付け加える。「子どもに強制を加えたら公職剥奪か、罰金。王府だけでなく、地域の責任として厳しく」

会議の輪が整い、リクはほっとした。言葉と手続きが決まれば、力の暴走を防げる。だが決めた瞬間、胸に小さな痛みが走った。昨日の代償が、身体の隅々に痕跡を残していたからだ。

(それは、気づかれないような細い線かもしれない)リクは思う。年齢の進行は「日」だ。目に見える劇的な変化ではない。だが、城下の人々は細部を見逃さない。肖像画は、ときに市民の鏡となる。昨日、夜のうちに絵師が城に呼ばれ、肖像は更新された。今、誰かが見れば、その一日が刻まれているはずだ。

「見に行こう」ミナが立ち上がり、小さな体で歩き出す。子どもは怖いもの知らずに見えたが、彼女の足取りには覚悟があった。

一行は館の廊下を歩き、広間へと向かった。広間の灯りが柔らかく揺れる。壁に掛かった肖像は、やはり違っていた。前より少しだけ顎のラインが伸び、目の縁にわずかな影が差している。絵は一日を刻んだ。誰の目にもわかるほどではなかったが、変化は確かに在った。ミナが不意に口を開く。

「リク様、少し大人になったように見えるよ」

リクは胸の中で微笑もうとしたが、その代わりに顔が少し強張った。年を重ねることが怖いのではない。失った一日が何を奪うか――それは未知だからだ。児童相談員として見た子どもたちの人生は、脆く、連綿とした時間の積み重ねでできている。自分がその時間を一片ずつ消費していいのか。答えは、彼の中で変わらず「はい」だった。だが「どうしてそれを誰かが負担しなければならないのか」を変えなければならない。

「これでいい。公開する」リクは低く言った。「肖像も、使用簿も、みんなの前で。だけど条件も守る。大人は子どもの願いを作らない。その手続きを守らない者は、僕とこの町が責任を問う」

「うん」ミナが静かに頷く。彼女の小さな額には子どもらしいしわが寄っていた。マドカは目を潤ませた。ルーカスは言葉少なに佇む。

広間を出ると、城外からの物音が遠くで響いた。市場の呼び声、荷車のきしみ、きっとすぐに耳に入るのは噂だろう。透明性は、噂を薄めるが、噂はやはり勢いを持つ。

「公表の仕方はどうする?」マドカが尋ねる。「王府の布告だけでなく、学校で説明会を開いて、子どもたちへ直接話すべきだわ。大人たちにも、地域単位で説明して回る。私も手伝う」

「学校で、だね」リクは頷く。自分の声で話すこと、子どもたちと向き合うことが最も必要だ。言葉を出すことで、彼自身が何を失ったのかを示し、代償を共有する。共有すれば、負担が一人のものではなくなる。

その時、廊下の門が勢いよく開いた。城府の使者