陶工

陶工 第25話「第23章」

「もっと左、右よりも少し低く──その列を崩さないで!」

「もっと左、右よりも少し低く──その列を崩さないで!」

アカリの声が溶岩を背にして震えた。目の前では、村人たちが並べた器の列が、赤く光る滾る流れをほんのわずかに逸らしている。彼女が今したいことはただひとつ。あの縁(ふち)の向こうへ溶岩を行かせないこと。守る対象は、壊れかけの屋根の下にとどまる家族、幼い声を失ったセラ、そして自らの手で悲しみを抱えられると決めた村の全員だ。妨げは、噴き出す熱とイングの兵と、そして、鋭い音を立てて割れる陶器の破片の雨だった。

「アカリ、こっちだ!」大柄なリョウが、焼けた石を押しのけながら叫ぶ。彼は溶岩流の側面を支える土嚢の代わりに、急造の籠と重さのある皿を抱えて走ってくる。ミヨは陶仕事の師匠らしく、手際よく割れた皿を拾い集め、血の混じった土を指先で撫でるように扱った。「土は持ち主が自ら渡すのよ。忘れないで」

アカリはそれを聞いて、喉元が詰まるのを感じた。彼女の能力は単純で、しかし厳格だ。本人が手渡した土だけが、器に持ち主の言えない感情を模様として焼き付ける。感情を消すことはできない。壊れれば感情は暴れ、壊されたときアカリ自身は温度感覚を失う――だから彼女は、器を一つも無断で作れない。まだ震える指に、過去の代償が刻まれている。だが今は説明などしている余裕がない。

「セラ、ここに。自分の土を──」アカリは小柄な子に差し出す小さな皿を抱え、叫ぶ。セラはそれを受け取る手が震え、口元がかすかに動いた。声は出ないが、目は強く光った。彼女が土を渡すとき、皿の縁に黒い模様が走った。波紋のように広がる模様は、言葉にならなかったものを映し出す。

だが安堵は短かった。突如、列の中の一つが鋭い音を立てて砕け散った。飛び散った破片の一つが空気を切って、近くに立っていた若者の胸に深く突き刺さる。叫び声が上がり、同時に空気がぎゅっと引き締まった。砕けた器から滲(にじ)むように、見えない何かがうねりだす。炎の精霊が叫びを上げるかのように、近くの小さな火の玉が勢いを増した。

「割れた! 被害だ!」ミヨの声が低く震える。アカリは反射的に手を伸ばした。掌(てのひら)に広がるはずの熱が、そこにはなかった。冷たい空虚が指先を刺す。先に壊れた器の代償で、アカリの温度感覚は既に薄れている。今また壊れたとき、その感覚がさらに遠のくことを、彼女の脳が理解した。だが目の前の炎が膨張し、列全体を飲み込もうとしている。

「冷たい、って言ってるだろう。触るな、アカリ!」リョウが必死に彼女を引いた。彼の瞳には恐怖が滲んでいるが、同時に揺るがぬ決意がある。アカリはそれを理解していた。自分が触れるべきではない場面が増えている。触れることで代償を払わせることはできるが、それは仲間の血の上に成り立つ。

「包めるか! 裂けた断片を、ただに晒すな!」アカリの声は震えていたが、命令は明瞭だった。彼女は自分ができないことを仲間に託した。陶の壁が割れると、解き放たれた悲しみは炎の精霊を刺激する。だから破片をただちに新しい器で包み込み、感情の乱れを抑え込む必要がある。包むためには、包む側が自らの土を渡すこと。能力の規則は厳しいが、その規則を逆手に取るのだ。

「私の土を使う!」ミヨが言って前に出た。彼女の指先は泥だらけで、皿を握る手が震えている。ミヨは自分の土を、裂けた破片の中へそっと押し込んだ。器の縁に奇妙な模様が一瞬ひらめき、渦のように収まる。爆発的なうねりは縮小し、側で燃え上がっていた小さな火の玉がくすんだ。

「まだ足りない。もっと必要だ」アカリは息をつかずに叫ぶ。「誰でもいい、自分から土を渡せる者は手を挙げて! 強制はしない、だが早く!」

「俺が──」タカオが前に飛び出した。若い守り手だった。タカオの顔は黒く煤け、胸には斬られた痕がある。彼は自分の土を素手で破片の回りに練り込む。彼の動作は無駄がない。器に模様が刻まれると、周囲の空気はぴたりと静まる。リョウが、壊れた皿片を抱き留めるタカオの肩を叩いた。

しかし次の瞬間、上空から落ちてきた飛び石がタカオの脇腹を直撃した。鋭い金属音がして、タカオはつんのめる。彼はまだ立っていたが、膝の裏に赤い染みが広がり、顔色が白くなった。タカオは壊れた器片を離さなかった。小さな息が肩を震わせる。誰かが彼に駆け寄ったが、彼は首を振り、器を抱いたまま正面を向いた。

「このままじゃ、また割れる」アカリは叫んだ。溶岩は縁を押し上げ、イングの兵が鉄槍で列を叩いてくる。火の精霊の残響が、村の器列を次々に揺らした。割れた断片が飛び散るたびに、周囲の人の目が曇る。そこに吐き出される感情は、失った者たちの叫びと、怒りと、後悔が渾然一体となった負の熱だった。

「セラ、君の願いを、叫んでみてくれないか?」ミヨが小さく促す。セラは震える手で口元に触れた。声はまだ出ない。だが彼女の掌に乗る土の皿に浮かんだ模様を、ミヨはじっと見つめた。模様の中に、「灰の中の手形」のような痕が濃く残っている。そこには、見覚えのある押印(おういん)が薄く刻まれているように見えた。ミヨの顔が変わった。「この模様……記録の印だ。あれと同じだ」

誰もが一瞬、息を飲む。割れた破片の一つが、砕ける前に刻んでいた模様を露わにしていた。その模様は、かつてイングの施設で使われていたという認証印と、驚くほど似ていた。アカリの頭の中で、過去の断片がつながる。器はただ悲しみを収めるだけでなく、誰かの管理の道具としても用いられていたのかもしれない――無理やり渡された土、強制された器作り、消された声。割れた器の模様が、イングの制度の痕跡を露わにした。

「証拠だ!」リョウが叫ぶ。彼は割れた破片の一つを拾い上げ、泥を払いのけて模様を露わにした。その模様は、黒い杯の文様と似ている部分を持っていた。兵士たちの列の中で、それを見た一人が足を止めた。彼の表情が動く。隣にいた兵が首を傾げ、それを上官に提示しようとした瞬間、士気に亀裂が生じた。

イングの側も反応した。旗を振る声が上がり、彼らは証拠を隠そうと前へ出てくる。だが、その動きが逆に醜悪さをさらす。村の者たちは、証拠を手にしたことで、ただ守るだけではなく、立ち向かうための武器を手にしたのだと知る。アカリは胸の奥で、震えながらも一筋の沈静を感じる。模様が真実を示しているのなら――。

しかしその喜びは長くは続かなかった。列のさらに奥で、もっと大きな破片が飛び散り、仲間の一人、ジンの肩に直撃した。彼は器片を抱えて転がり、地面にうずくまる。鮮血が土に吸われていく。ジンは苦悶の声を漏らし、片手で割れた破片をぎゅっと握りしめたままだった。アカリは走り寄った。しかし掌は冷たく、熱を感じ取れない。ジンの皮膚の温度を確認することができず、彼女はただ、彼の呼吸の乱れと、瞳の焦点が遠のいていくのを見た。

「放すんだ、ジン! 代わりに私たちの土を入れる!」アカリは叫んだ。彼女は自分で触れられない代わりに、指示を飛ばす。リョウがジンの手首を掴み、無理やり破片を離させる。ジンは唸るような声を上げ、床に倒れた。彼の胸の上下が不規則だ。リョウは地面にひざまずき、口から土をすくい上げて器の破片に押し付けた。土と血が混ざり、そこに