陶工

陶工 第26話「第24章」

溶岩の匂いが風に乗って村の入口まで届いている。アカリは拳ほどの土玉を両手で包み込み、仲間のミナに差し出した。冬の灰がまだ髪に残る妻のような顔が、目の前でひくつく。

溶岩の匂いが風に乗って村の入口まで届いている。アカリは拳ほどの土玉を両手で包み込み、仲間のミナに差し出した。冬の灰がまだ髪に残る妻のような顔が、目の前でひくつく。

「受け取って。土は私が用意したものだけが効く。私があなたに渡すまでは、誰にも触らせないで」

ミナの手が震えながら土を受け取る。彼女は小さな声で答えた。「出来るかしら、こんなに……」

「出来る。形にして、あなたの言葉で焼くの。強制はしない。あなたが選ぶんだ」アカリの声はいつもより落ち着いていた。窯前の冷たい石畳が、足裏にだけ伝わる。片手の指先――左手の四本は、すでに熱さを知らせなくなっていた。十二章での代償が体に刻まれている。触れた陶の表面が焼けるように熱いか、ぬくもりがあるか、判断できない。そこがいつも自分の弱点だと自覚している。

遠くで、イングの旗を掲げた兵が列を成して歩いてくる音。彼らの後ろには、鎧を焦がすような赤い光が蠢いている。火の精霊が兵器として縛られて、イングの命令でこちらへ放たれてくる。溶岩流はすでに山腹を裂き、村の低地を狙っていた。アカリは窯の縁に立ち、仲間たちの顔を順に見た。タケルは額に血をにじませている。サラは子どもの手をぎゅっと握りしめていた。誰もが疲れ、しかし諦めてはいない。

「アカリ」タケルが低く言った。「黒い杯はどうする? あれがイングの象徴だって、あいつら言ってくるだろう」

アカリは足元に並んだ、ずらりと並ぶ陶器群に視線を走らせた。黒い杯は中央に、割れ目ひとつ見せずに鎮座している。序盤から彼女の胸を刺してきたその不穏な輝きは、今や敵の標章になって村を断罪するための道具として使われていた。だが彼女は、これを壊すことはできない。壊れた器は、所持者の言えない感情をばら撒き、彼女からさらに温度感覚を奪う。既に失っている部分がある。壊されれば、もっと取り返しのつかないことになるかもしれない。

「壊すのは最後の手段」アカリは答えた。「壊れた破片は、誰かの心を暴く。私の感覚は即座に奪われる。今それをするわけにはいかない」

その言葉を聞いたミナが、土を指でこねながら呟いた。「でも……このまま溶岩が来たら、全部溶けてしまう。感情も、思い出も。イングはそれを望んでいるんだ」

「消すことはできない」アカリは、能力の不変のルールを口にする。彼女が手渡した土に宿るのは、隠された感情を模様にして焼き付けることだけ。消すことは、決して許されていない。「私たちの仕事は、消すことじゃない。悲しみを、共に抱えて立ち向かうことだ」

兵の足音が近づく。火の精霊が唸り、空気が震える。イング自身が騎乗しているという知らせが村の広場に到達した。彼は高く掲げた黒い杯の模造品を振りかざし、支配の理をぶちかまして人々を怯えさせる。だがアカリは、力で押さえつける代わりに証拠と証言で彼を縛るつもりだった。陶の模様は個々の言葉よりも正直に、何があったのかを語る。彼女はそれを、イングの暴政の証拠にする準備がある。

「行くわよ」アカリは仲間に叫んだ。「一人も強制しないで。自分で作る。私から土を受け取った人だけ、その模様が精霊に届く。私が渡す数は限られている。だから選んで、声を上げて」

作業は早かった。アカリは自分が運んできた土を小さな容器に分けていく。渡した数は少ないが、村の中核となる人々を選んだ。年老いた祭司のユア、左官のマル、そして黒い杯を保存してきた古老のハナ。彼らは自らの意志で土を受け取り、器を成形し始めた。手伝う者は多い。アカリは自分の技術を仲間たちに教え、手順を繰り返す。器の表面に浮かび上がる模様は、見ているものが言葉にできない記憶を目で読めるように変えていく。

窯に並べられた器たちは、風に乗って一つの低い旋律を奏で始めた。かつて彼女が不思議に感じた「窯だけで鳴る子守歌」だ。単体ではかすかな高鳴りに過ぎないが、数が揃うと和音に変わる。アカリはそれを聞くたびに、胸の中の不安が少しだけ薄れるのを感じた。子守歌は人々の呼吸を揃える。兵の行進の鼓動と対照的に、窯の歌は村の心を一つにする。

イングの先導する騎兵隊が広場に突入した。盾の衝突と金属の鳴りが鳴り響き、火の精霊が上空を翻る。兵の一人が叫ぶ。「器を出せ! 全ての器を提出しろ! 管理下におけば、火も沈む!」

アカリは答えなかった。代わりに、ユアが立ち上がる。年老いた祭司の手は震えていたが、その目は確固としていた。「我々の器は、我々のものだ。それを管理する権利は、あなたにない」

イングは馬上から嘲笑した。「管理は保護だ。我々は秩序を与える。悲しみは混乱を生む。私がそれを始末する——」

「あなたは消すと言った」ハナが声を切った。「灰の中の手形。あの痕跡は、あなたたちの施設が昔、何をしたかを示している。あの日、消されたはずの人々の名前は、器の模様に残っている」

イングの表情が微かに変わる。彼は否定のための言葉を探すが、サラの口から出た一枚の器が兵列の間でひらりと転がり、濡れた模様が露わになる。そこに描かれていたのは、灰の中に押された子どもの掌の跡だ。曾て施設で行われたという「整備」の痕跡と同じ形で、火の精霊が兵器と化すために感情が読み取られていた証拠だ。

「これを見ろ!」タケルが叫ぶ。「これはただの模様じゃない。記録だ。あなたたちは悲しみを集め、加工し、兵器に変えた。証拠はここにある」

兵の何人かがその器面を見て、表情を変えた。一瞬のためらいが隊列に走る。火の精霊はむせび泣くように鳴いた。イングは顔を紅潮させて手綱を強く引いた。「でたらめだ! 偽造だ!」

アカリは胸が締め付けられるのを感じた。イングを力で潰すことは簡単だったかもしれない。彼女の術があれば、渡した土で作った器を武器に変えることもできた——だがそれは彼女の意思に反する。彼女は力を独占しないと宣言していた。彼女の仕事は人々に選択を与えることだ。

「強制しないで」アカリは叫んだ。「あなたのやり方を止める方法は、力じゃない。ここにいる人たちの声と器の模様だ。彼ら自身が語るなら、隠し通すことはできない」

イングが睨みをきかせる。「情に訴えるのか。情で人は動く。だが情は不確かだ。秩序は数値と管理で成り立つ」

その時、窯の子守歌がほんの少し音を増した。器群が共鳴し、低い和音が広場を包む。民衆の心拍がそろい、兵士の中の不安が増幅する。数人の兵が鞍の上で動揺を見せた。彼らの瞳に、子守歌の中に混じる小さな記憶の断片が映り込む。誰かの母親の笑顔、忘れていた祭りの匂い。火の精霊はその波動に揺らぎ、攻撃の勢いを削がれた。

イングは鞭を投げるように怒鳴る。「抑えろ! 精神を鎮めろ! 器を集めろ!」

兵が一斉に器に手を伸ばした。だが、その瞬間、アカリの胸に冷たい衝撃が走った。ひとつの器が兵の投げ手の腕の動きでぶつかり、ガキンと割れた。土の破片が飛び散り、割れた器の模様からかすかな光が漏れる。破片から放たれた感情が空気を斬るように暴走した。人々の内側に閉じ込められていた悲しみが、叫びと泣き声となって噴き出す。視界が揺れ、耳の奥で何かが鳴った。

アカリは瞬時にそれを悟った。割れた器の代償が、自分の内部に及ぶ。左手の残りの指