干谷の水脈守り

干谷の水脈守り 第5話「第四章」

入口の石口は、昼の熱を受けて淡く黒光りしていた。竜骨渠の外縁に積まれた切石は風と砂に削られ、指先が触れるだけで細かな砂粉が落ちる。三人はそこに立ち止まり、薄暗い穴の奥へと視線を落とした。入口の先は太いアーチになり、乾いた空気が吐息のように外へ漏れてくる。外よりもわずかに冷たく、わずかに湿っている——それだけで、谷の底に古い水の気配が残っていることを示していた。

入口の石口は、昼の熱を受けて淡く黒光りしていた。竜骨渠の外縁に積まれた切石は風と砂に削られ、指先が触れるだけで細かな砂粉が落ちる。三人はそこに立ち止まり、薄暗い穴の奥へと視線を落とした。入口の先は太いアーチになり、乾いた空気が吐息のように外へ漏れてくる。外よりもわずかに冷たく、わずかに湿っている——それだけで、谷の底に古い水の気配が残っていることを示していた。

ナナは背嚢から古びたランタンを取り出し、芯に息を吹きかけながら言った。「ここが入り口ね。ほら、見て分かるでしょ?外からでも石の積み方が王都の様式とは違う。竜骨渠の古い工匠の仕事だわ」

セドはゆっくりと頷き、筒に巻いた地図を肩にしょったまま、入口の側面に刻まれた古い符号を目で追った。「ここから先は地図にない細い支流が走っている。封鎖区画の外縁だ。気を付けろ。王都の見張りが近いかもしれん」

リオはそっと前へ出た。父の保守印が入った革札を胸に押し当てる。指先が乾いた石壁に触れると、ひんやりとした振動が掌に伝わってくる。水脈聴きはまだ彼の身体にある感覚のひとつで、それは視覚ではなく「音」を立体に感じさせるものだった。だが、紙や空気は返事をしない。石だけが、ほんの短い合図を送ってくる。

リオは軽く壁に掌を当て、耳をすます。するといつものように、青白い線が掌の中で走った。線は流れを示す、細い光の糸。だが深くは続かない。入口の向こうは崩落や複雑な分岐が多く、石全体が一様な応答を返してくれないときがある。リオは線の末端を追い、口の中が少し乾くのを感じた。少し、だ。まだ危険ではない。

「どうだ?」ナナが手袋越しに彼の肩をつかみ、目を覗き込む。「聞こえるなら全部教えてよ。私らが道具を運ぶんだから、無駄に動かないでくれ」

リオは首を振る。「全部は分からない。今のは——奥で気泡みたいに弾く音がする。でも、真っ直ぐじゃなくて、分岐があるようだ。誰かが水の流れを止めたような、乱流の手触り」

セドが短く唸る。「封鎖の仕方だ。流路を意図的に細くして、上流を優先させる。誰がやったかは別だが……それを逆手に取るなら、別の道を見つけるか分岐を活かすしかない」

三人は準備を整え、ランタンの光を足元に落とした。そのときだった。背後で、かすかな金属音がする。荷縄の擦れる音か、それとも何かが爪先をかすめたのか。ナナが振り返ると、彼女の背嚢の口がぱくりと開き、そこから小さな影が飛び出した。

それは一つの生き物だった。体は砂色と灰色の短い毛で覆われ、砂に同化するような縞が背中に並んでいる。頭は丸く、耳が小さく、目は濡れた黒曜石のように輝いていた。足は長く細く、先が三叉になった足先が岩に吸いつくように動く。尻尾は短く、先端が小さな金属片のように光っていた。まるで小さな獣と小さな鳥が混ざったような、不思議な形だった。

「何これ?」ナナが声をあげ、手を伸ばす。しかし生き物は素早かった。鼻先で彼女の背嚢に入った小さな鉄製の巻尺を掴み、体をくるりと一回転させて口に咥え、入口へと駆け出した。金属のかち合う音が石壁に反射し、小さな生き物の高い悲鳴のような鳴き声が続いた。

「待て!」セドが短く叫び、走り出す。ナナもすぐに後に続く。リオは動かなかった。動くべきか。石に触れて流れを読むべきか。彼は本能的に壁へ手を伸ばし、短く触れて情報を吸い上げた。青白い線が一瞬、指先から肘へ、胸へと走る。生き物の通る方向には、下に向かう細い流線が見える。だが、同時にその線はぶつ切れになり、途中で濁っていた。それは——一つの塞がれかけた流路だ。

「迂回路だ」リオは息を詰めて叫んだ。「あの子は、あっちへ!」

追跡は思ったよりも速かった。生き物は狭い裂け目を見つけ、するすると滑り込んでは止まり、また別の穴を抜ける。ナナとセドは大きな身を折り、石の縁を乗り越え、尻もちをつきながらも必死に追う。リオは小走りで後を追ったが、途中で腰をかがめて石に触れ、流れの断片を拾い続ける。触れるたびに喉の渇きが増す。最初は小さな渇きだったが、掌が見せる青白い線の数が増すほど、胸の奥が砂を噛むように渇いた。

生き物は縦横無尽に石の裂け目を利用した。洞の床には過去の工事で散らばった道具や砕けた管片が転がり、彼の三人はそれを踏み越えた。ランタンの光が壁に映り、影が踊る。リオは何度か短く視界が白く霞むのを感じた。水脈聴きの副作用だ。だが都合よく、視界は完全に消えるほどではない。彼は石に触れる頻度を減らして、その代わりに足音と空気の流れを頼りに動いた。

小さな生き物が止まったのは、壁のひとつの割れ目の前だった。そこからは、外よりもはっきりとした湿気が吹き出していた。生き物は鼻を上げ、喉を鳴らす。だが口を開けることはなく、むしろ湿った方へ向かって耳を伏せ、舌先を少しだけ出して空気を味わうようにしていた。

ナナが懐から短い棒を投げ、突っつこうとした瞬間、生き物はさっと身を翻し、棒をかいくぐるようにして裂け目へ滑り込んだ。棒は壁に当たって粉を散らし、ナナの顔に白い埃をはね返した。「くそっ、逃げやがった!」彼女は歯を食いしばる。セドはため息をつき、割れ目の前で足を止めた。

リオは裂け目に手を添えた。掌が石の冷たさを伝えると、青白い線が裂け目の中で複雑に絡まっているのが見えた。細い流線が幾筋も集まり、ひとつの太い脈になろうとしているところだ。それらの線は塊になってぶつかり合い、ところどころ赤みを帯びた逆流の小さな矢印が混じる。——どれも現在の状態を示す。原因や未来は見えない。だが流れの様子ははっきりしていた。入り口の正面を通る流路は崩落や封鎖で使えなくなっており、裂け目の先にある湿った空気の通り道が、崩落しない安全な迂回路である可能性が高い。

リオはそっと言った。「ここを通れば、上手くいく。崩れてない。湿気が抜けてるから空気の流れがある。だけど——水には触らないほうがいいみたいだ。あの子、濡れてるところを避けてる」

ナナは眉を寄せた。「水を避けるのに、湿気を嗅ぎ分けるの?意味がわからない」

セドは声を落とした。「魔獣の一種かもしれん。地下に棲む小獣は、普通の水を嫌うのがいる。汚染か何かで表層の水が危険になっている——それを察知しているのかもしれん」

生き物は裂け目の中で立ち止まり、鼻の黒い先端を小さな裂けに入れては引っ込めた。そして、突然、振り返ると三人を見た。黒曜石のような瞳がじっと彼らを据え、かすかな唸り声のような音を口から漏らす。両前脚で地面を掻き、一つの行動を促すしぐさをした。まるで「こっちへ来い」と人を誘うような合図だ。

リオは一歩前に出る。心臓が速く打つ。村で「水を呼べない落ちこぼれ」と呼ばれた自分が、今はこの生き物の示す湿気の道を指差している。間違っているのではないかと自分を疑う瞬間が過るが、父の印が胸でぴくりと揺れる。彼は唇を嚙み、ゆっくりと裂け目へ体を滑り込ませた。

裂け目の中は思いのほか広く、彼らが腹這いになって進む必要があるほど狭かった。壁は潮で光り、所々に白い苔がへばりついている。空気は冷たく、呼吸するたびに肺の内側が洗われるようだ。足元に奇怪な模様を描く小さな水たまりが点在し、生き物はそれ