花火師

花火師 第6話「第5章」

ユウは今、子どもたちに花火を見せたかった。声をかければ逃げられる。無理に追えば、古いトラウマを刺激して余計に恐れさせる。目の前で縮こまっているのは、避難民区画の広場の隅に座る小さな肩と、汚れた手でぎゅっと押さえられた耳栓だった。彼はその耳栓をどうしても外させたかった。外して、小さなポップや軟らかな光を、恐ろしくないものとして知ってほしかった。

ユウは今、子どもたちに花火を見せたかった。声をかければ逃げられる。無理に追えば、古いトラウマを刺激して余計に恐れさせる。目の前で縮こまっているのは、避難民区画の広場の隅に座る小さな肩と、汚れた手でぎゅっと押さえられた耳栓だった。彼はその耳栓をどうしても外させたかった。外して、小さなポップや軟らかな光を、恐ろしくないものとして知ってほしかった。

「ミナ、僕に任せてくれ。少しだけ、合図の花火を作る。爆音は出さない。方向を示すだけでいいんだ」

代表のミナは眉を寄せた。夕暮れの風が避難テントの布を撫でる。周囲の大人たちは戸惑いと不安で固まっている。ユウは腕に古い革の前掛けを巻き直し、工房の作業台へと歩き出した。守るべきはこの区画の人々――とりわけ、花火を怖がる子どもたちだ。子どもが信頼を取り戻さなければ、祭りは単なる大人の都合になってしまう。

足音を立てると、耳栓をした子どもが小走りに逃げ出した。ユウは咄嗟に立ち上がり、周囲の声を遮って追いかけた。彼が追ったのは、五、六歳くらいの男の子。細い足は小さな泥溜まりを飛び越え、民家の軒先をすり抜ける。ユウは追いかけながら、自分がここにいる理由を繰り返していた──火は、人を守る手段になり得る。だがその火は、扱いを誤れば恐怖の源にもなる。だからこそ、扱い方を教えたい。

路地裏に逃げ込んだ男の子は、低い物置の陰に角ばって座り込み、震える手で耳栓を押し込んでいた。ユウは躊躇せずに膝をつき、子どもの目線に近づいた。目は真っ赤で、何度も眩しい光を見たかのように瞬きをしている。

「ごめんね。驚かせた?」

声は柔らかく。だが子どもはすぐには答えなかった。ユウは手を差し伸べる代わりに、先に自分の名を言った。名を知られれば信頼の距離は少し縮まる。子どもは小さな声で、やっとのことで言った。

「おとが、こわいの」

耳栓がそこにあった理由が、その一言で全てを説明してしまった。ユウは子どもが言葉を飲み込まないように、ゆっくりと頷いた。自分もまた、かつて大きな音が怖かったこと、でもそれを安全に扱う方法を知っていることを伝えたかった。しかし、彼には伝え方の制約があった。能力にはルールがある。

彼の手元には、砕かれた花火筒の断片と、古い薬包がいくつか残されていた。火薬や鉱石に宿る色の熱を「編む」には、物質に触れて線をなぞり、そのまま意図を込める必要がある。三つまで同時に扱えるが、同じ色を重ねてはいけない。とりわけ金は守りを作る力だが、使うほどユウ自身の痛覚が遠くなり、火傷にすら気づきにくくなる。そんな制約を胸に、彼は四つの小さな粉塊を掴み、子どもに向けて掌を差し出した。

「耳栓、取ってみようか。ゆっくりでいい。まずは小さな音、ね」

子どもは首を振った。ユウは焦らず、作業を始めた。赤い粉は暖かさ、青は方向を示す感触を作る。それらを織ると、火薬は小さな合図を放つ。金は守りだが、今は封じておく。彼はそう決めていた。しかし、実際にどう受け取ってもらえるかは保証できない。耳栓の起源は、彼が想像していたよりずっと深いところに根を下ろしていた。

「ねえ、おじさんは大きな音を出す人?」

子どもの目が狂おしいほど真剣で、言葉には古い恐怖の痕が浮かぶ。ユウは首を振り、手を握り返す代わりに掌の小さな、温かな塊を作った。赤と青だけで構成した小さな芯。赤が火を、青が飛行の方向を示す。二色だけなら、彼の能力の触媒としては安全域にある。だがそれでも、同色を重ねれば暴発する。失敗は人を傷つける。安全第一でなければならない。

「僕は、火を大きくするつもりはない。光と少しの暖かさで、どこに行けばいいかだけを教える。怖くないよって、分かるまで一緒にいる」

子どもは小さく息を吸い込んで、耳栓の端をつまんだ。彼の小さな指は震えている。背筋を伸ばし、見える範囲の大人たちがこちらを見ているのをユウは感じた。夜でもない、昼間でもない空の下、工房の壁に寄りかかっていたガルドの姿が見えた。彼は言葉を発さないが、眉の奥には計算と不安が混ざっている。ガルドは元宮廷点火士だ。役割は独立している。今日、この瞬間に口を挟む必要はない。ユウが安全だと示すことが先だ。

子どもが耳栓を外した。最初に入ってきたのは風の音、遠くの市場の声。子どもの瞳に驚きと戸惑いが同時に走る。ユウは手元の小さな芯に念を込め、赤と青を静かに結ぶ。色は触感のようにのび、粉と金属の匂いの間でほのかな熱を放った。編むときには、いつも手順を口に出して確認する。失敗は許されないからだ。

「赤──熱。青──道。今から行く方向はここだよ」

彼の言葉が終わると、小さな落雷のような音とともに、煤の匂いが漂ってきた。灯りは柔らかく、昼間の影をほんの少しだけ鮮明にする。火の粒は高く跳ねず、低く漂って子どもの前でふっと消えた。暖かさは掌に残りもせず、むしろ身体の奥をそっと撫でるような優しさがあった。子どもはゆっくりと笑った。笑顔はぎこちなく、しかし確かにそこにあった。

「……あれ? おと、そんなに、こわくない」

ユウは胸の底から息を吐いた。小さな成功があった。だがすぐに脳裏をよぎるのは、金のことだった。もし警戒が必要なら金を込めるだろう。だが金を使えば、彼は自分の手の痛みを感じにくくなる。過去に火傷を見落として、簡単な怪我だったものを悪化させた記憶がある。ユウは防災検査員だった頃の慎重さを思い出す。技術が安全を保証するわけではない。人が守らなければ、安全はただの幻想だ。

子どもは耳栓を付け直し、今度は自分の胸に抱いているように見えた。恐怖は簡単には消えない。ユウはそれを認める。だが、彼は一つの約束を決める。合図の花火を、段階的に教えていくこと。最初は光だけ、次に小さな振動、そして信頼が育ってから初めて守りを付ける。守りは金で作るものだ。だがそれを一人で負う必要はない。仲間を巻き込み、手順を分担することができる。

「ミナ、区画の子どもたちに、明日夕方に小さな見本を見せる。音は出さない。光と方向だけでいい。君たちにも見せて、保護者には説明する。いいか?」

ミナは疲れた顔で頷いた。迷いの奥にある希望が、わずかに顔に戻ってくる。ユウは子どもに一度手を振り、工房へ戻ろうとした。だが路地の入口で、背後から小さな声に止められた。

「ねえ、おじさん。なんで耳栓をつけていたか、知ってる?」

廃材の影から老人が現れた。彼はこの区画に古くから住む職人で、目は深い皺と経験で覆われている。ユウは立ち止まり、老人の顔を見返した。

「昔、大きな音があった。空が泣くような、金属が裂けるような音。あのとき、うちの子は夜の間じゅう眠れなくなってね。耳栓を配ったのは、その日からだ」

老人は言葉を濁さなかった。語り口には哀しみと怒りが交じる。ユウはそのとき、耳栓が単に子どもの個人的な恐怖の対処でないことを理解した。そこには集団の体験と、それに対する大人の仕掛けがある。耳栓は恐怖を遮るために与えられた。しかし、その遮断は同時に、重要な合図をも消してしまったかもしれない。合図が聞こえなければ、避難は遅れる。合図が乏しければ、被害は広がる。

ユウは工房に戻ると、作業台に散らばった図面と旧