花火師

花火師 第5話「第4章」

風が低く、夕闇が早く落ちる季節だった。ユウは工房の戸を半分だけ開け、外の空気を胸に引き込んだ。やるべきことは一つ──夜間の連絡網を始めること。だがそれを邪魔するものが目の前に一つ、そしてもう一つは遠い王都からの気配だ。

風が低く、夕闇が早く落ちる季節だった。ユウは工房の戸を半分だけ開け、外の空気を胸に引き込んだ。やるべきことは一つ──夜間の連絡網を始めること。だがそれを邪魔するものが目の前に一つ、そしてもう一つは遠い王都からの気配だ。

「ここで何をなさっているんだ、若者よ。」

戸口に立ったのは地方の役人らしい男で、黒い外套に国章の釦を光らせていた。顔つきは硬く、目は刃物のように工房の中をなめるように見た。ミナが少し前に出て、手にした書類をぎゅっと握りしめる。避難民たちの代表としての威儀と、日常の疲労が混ざり合った顔つきだった。

「夜間の灯火についてだ。最近、王都から『不審な火』への注意が出ている。規制が厳しくなった。来週から通行路に検問を増やすという通達を受けた。ここも抜き打ち検査を受けるかもしれない」

役人の言葉はやけに冷たかった。ユウの胸の奥が反応した。通行の制限は、物資の滞りだけでなく、人の往来を止める。祭礼のために必要な火薬や材料が届かなければ、復活させようとしている帰天祭の準備は途中でつまずく。だがそれ以上に、夜に合図を送ること──小さな灯りで避難路を示すことすら、監視の目に触れれば危険だ。

「許可はあるのか、と問われれば、ない」とミナが答えた。顔に小さく悔しさが走る。ユウはその言葉を待っていた。期待もしない。許可を求める道は、王都の門前で許しを乞うことだ。だが彼らはその門を、静寂の名の下で閉ざそうとしているのだ。

「許可は出せない。だが、私の仕事は秩序を守ることだ。秩序に反することがあれば――責任を問う」

役人の手に紙の筒が一本あった。そこには検問の予定表と、通行制限の告示が入っている。ユウはその紙筒を凝視した。そこに押された朱印は、王都の摂政の権威を示していた。朱は公の色だ。だが朱の横で、金の糸のような線をまだ見つけることはできない。見えないものが、もっと厄介なのだ。

「そうか」とユウは静かに言った。「騒ぎを起こしてはいけない。けれどここにいる人たちを、一晩でも守ることはできる。許可を待つ必要はない」

役人の目が細くなる。ミナの手が、ぎゅっと更に強く書類を握る。ユウはすぐに行動に移した。言葉より先に動くことが自分の性分だと、前世の習慣が訓えた。外套の下の作業帯から小さな筒を取り出す。試作の合図筒だ。赤と青の粉を封じ、金の線はごく薄くしか入れていない。金を使えば守りの機能が付く――だがその代償は痛覚の喪失で、自分の手に火傷があっても気づかなくなる。ユウはそれを誰より恐れていた。

「見せてくれ」と役人は言った。命令に近い。ユウは一瞬迷った。正式な実演を望むなら、許可なく点火するのは反則だ。だが目の前の人間に、ただ不安を抱かせるより――不安が暴力を生む前に、安心を作るのが今必要だった。

ユウはミナに一瞥を送る。彼女は黙ってうなずいた。ミナの目には覚悟が宿っていた。避難民区画の顔として、あの人々の夜を守るために、彼女はリスクを受け入れる決意をしたのだ。

「小さな合図だけ。これは避難路を示すためのものです」とユウは低く告げ、筒の先端を短く焙り、火口に火を当てた。赤がまず膨らむ。赤は熱を示す。空気が震えるように暖かさが走り、その先に青の線が静かに紛れ込む。青は方向を示す。風向きを取るように、粉は弧を描いて上がり、ほんの少しだけ、軌道を変えた。

役人は眉をひそめた。だが、火は小さく、整っていた。火薬の燃え方。煙の薄さ。すべては制御されていることを示していた。ユウの手にほのかな熱が残る。金は使わなかった。使えば守りがつくが、自分の感覚が遠のく。工房に戻った時、自分の指先の皮膚の色が変わっているのに気づかずにいた事が、彼にはまだ鮮烈な記憶だ。あの失敗は繰り返せない。

「悪いとは言えないが、これを見て喜ぶ者もいる」とミナが言う。その声に子どもたちの顔が重なる。数歩奥から小さな影が覗いた。耳栓をしている。耳栓は不安の証明だ。だがそれでも、灯があるだけで心は少し軽くなることを、ユウは知っている。

役人は結局、肩をすくめた。書類を筒に戻すと、不愉快そうに言った。「今夜は見逃す。しかし、監視は続く。来週から検問を増やす。通行書類の無い者の往来は認めない。王都の命令だ」

彼が去るとき、足取りは重かった。外套の裾が夕風をはらんだ。ユウは戸口の前で、短く工房を見回した。材料棚、古い回路図、壊れた花火筒の破片。どれもが次の季節のための準備だった。だが通行制限が来れば、次の季節は遠いものになる。

「監視が強くなるということは、王都が井戸の蓋をさらに重くしたということだ」とガルドが後ろから言った。元宮廷点火士の男は、肩に煤の匂いを残していた。彼は長く王都で働いた者として、統制の色を鋭く理解している。腕の筋肉に次いで、彼の口元には辛辣さが滲んでいた。

「だが僕たちはここに人がいる以上、夜に何かをしなければならない」とユウは答えた。「許可を求めて門前で待つつもりはない。道が塞がれたら、夜の合図で小さな群れを守る。移動できる者が少しでも逃げられるようにするんだ」

ミナが手を合わせる。子どもたちの顔が固くなる。リラが小さく鼻歌のような音を立てる。リラは耳で色を聴く少女だ。彼女は音の高低で赤と青を聞き分けることができる。ユウはそれを以前に知り、今こそ彼女の能力が必要だと感じた。指示を出すのはユウだが、合図を選び、聞き分けるのはリラだ。二人が協働すれば、夜間の小さな秩序は生まれる。

「夜間の連絡網──簡単な合図で避難路を示す。一人が合図筒を打ち上げ、リラが音で色を読み取り、他が必要箇所に灯を据える。金はなるべく使わない。使うと僕の感覚が鈍るから、僕を過信してはいけない」

ガルドが、ふっと笑う。彼はユウの言葉を聞いて安心したようだ。かつては一人の点火士がすべてを担う世界にいた。だが今は違う。仲間がいなければ何もできない。

「集合は夜九刻。通行の少ない時間だ。見張りがいればやり過ごす。見張りがいなければ、青で位置を示して安全な道を誘導する。赤は暖かさやその場の注意を促す。金は……必要最低限」ユウはここで言葉を切った。金の話は短く、抑えられた。一度に使えば守りはできるが、その代わり彼は自分の手を安全に保てなくなる。ミナとガルド、リラの顔に、ユウの言葉の重みが落ちる。

夕刻が深まり、外の村道で巡回の靴音が聞こえ始めた。役人の警告がただの形式で終わらないことを知らせる足音だった。外からは、新しい石版の告示が貼られる音、旅人が足を早める音。空気の中に、外界の変化が染み込む。

「仕方ない」とミナが言う。「許可が出なくても、私たちの夜は守る。隣の家には合図の設置を頼んで回る。子どもたちにも、小さな役を与えるわ。彼らが自分たちを守るためにできることを知れば、怖さも少しは和らぐ」

ユウはうなずいた。彼のやりたいことは、子どもたちがまた夜を恐れずに眠ることだ。耳栓を外し、耳で合図を聞いて、動けるようになること。だがそのためにはまず、秘密めいた手順を教え、夜に光を放つ人々の連携を作らねばならない。許可という遠い神は待たない。自分たちで作るしかないのだ。

夜が更け、協議が終わる頃には、簡単な設置図がテーブルに広げら