花火師

花火師 第4話「第3章」

ユウは今、空に一本の青い矢を描きたいと思っていた――夜に逃げる人々のため、暗闇の中で「ここだ」と示す一本の線。手元には古びた紙筒と、燃え残りの火薬、鉄のさびた節のように差し込まれた細い金属片。足元ではリラが目を閉じ、耳に当てた布切れをぎゅっと押さえている。向かいにはガルドが、腰に下げた古い点火棒を弄びながら、困った顔でユウを見ていた。

ユウは今、空に一本の青い矢を描きたいと思っていた――夜に逃げる人々のため、暗闇の中で「ここだ」と示す一本の線。手元には古びた紙筒と、燃え残りの火薬、鉄のさびた節のように差し込まれた細い金属片。足元ではリラが目を閉じ、耳に当てた布切れをぎゅっと押さえている。向かいにはガルドが、腰に下げた古い点火棒を弄びながら、困った顔でユウを見ていた。

「外で、成功させるんだな」ガルドが低く言った。かつて宮廷の点火士だった男の声は、火薬に対する敬意と警戒を同時に含んでいる。ユウは頷き、両の手を紙筒に近づける。掌の下で、彼の能力が小さく震えた。赤い熱、青い方向。色は、手触りではなく記憶として、芯に残る。

「ただし、金は――」リラが言葉を差し挟む。彼女の顔には緊張と好奇心が混じっている。耳に当てた布の端を指で擦り、微かな音を探すように眉を寄せた。「ほんの少しでも、使うのは賛成しないよ。ユウの手、あの怪我――」

ユウは小さく笑った。笑いは硬かった。痛覚が薄れることの怖さを、彼自身が一番よく知っている。だが、それでも、今夜は青の合図が必要だ。避難路を示し、子どもたちを安心させるための道標を空に描く。そのために、赤の燃焼で推進し、青の方向性で飛ばす。金は使わない。できれば使わないで済ませる。だが万が一のために、金の微かな「守り」は確保しておきたい。条件、禁止、代償――すべて胸の中に整理し、ユウは低く宣言した。

「金は必ず誰かが管理する。俺は触れるけど、点火と最終確認はガルドがやれ。リラは音で合図を出してくれ。ミナさんと子どもたちは安全圏から見ていてくれ」

ガルドは黙って頷いた。リラは布を外し、小さな息を吐いた。「青は、こういう音よ」彼女は口を開けずに、小さな舌打ちに似た音を出した。その音はユウの胸に青い線のように響いた。ユウはそれを受け取り、手の中の火薬と鉱石に赤と青を少しずつ差し込むように思考を向けた――「編む」という感覚に近い。色の熱は、残滓として残された粉や鉱石にひそやかに宿っている。触れるたびに、それぞれの色がこみ上げる。

「同じ色を重ねるな」ガルドが念押しする。彼の眼鏡の向こうの視線は厳しい。「青の上に青を重ねると、筒の中で音と圧が干渉して、ガス圧の急上昇を招く。赤も同じだ。お前の能力は便利だが、一つの色で二度動かすと暴発だ」

ユウはそれを肝に銘じ、注意深く作業を進めた。赤は短く、鋭い焔の意志を与える。青は薄く、綾をなして方向を教える。二色だけで、推進花火の軌道は十分に制御できる。金の守りは、今回の試行では使わない。その決まりは、彼の中で堅かった。けれど、古い筒の内側に走る金の線を見つけたとき、ユウはわずかに心を揺らした。王都方向に向かう、それはどこかで見た構築の名残だ。だが今は触れない。規則を破れば、子どもたちが危険に晒される。

豆電灯の光だけが、三人の動きを白く切り取る。ユウは筒に小さな導火線を差し込み、火薬の撹拌を終えた。冷たい夜気が顔に当たり、火薬の匂いが鼻腔をくすぐる。リラが耳に布を戻し、目だけで合図を送る。ガルドは点火棒を手にし、隣に立つ。ユウの手の中から、赤が一瞬強く膨らみ、青がそれに沿って伸びる。二つが絡み合うと、筒の先端で低い圧の振動が生まれた。

「三――二――一」ガルドが数える。声は低く、簡潔だ。ユウは呼吸を合わせ、指先の感触を一点に集中させる。赤の熱は燃焼速度を高め、青は軌道を矯正する。筒は地面を離れ、夜空へと跳んだ。小さな花火が、予想通り一直線に飛翔し、暗い森の端まで延びてから小さく弧を描き、青い尾を残して消えた。歓声は抑えられていたが、それでもミナの唇が震えているのが見えた。遠巻きに立っていた子どもたちの一人が、目を丸くして布を外した。

「成功だ」リラが静かに言う。彼女の声には驚きが混ざっていた。ユウは笑顔を返したが、そのとき、手の中に妙なしこりを感じた。最初は小さな熱感。消えかけの触覚だったが、何かが確かに指先を焦がしている。ユウは瞬間的にフォーカスを戻し、調べようとしたが、痛みがわからない。昨夜の怪我の痕もあり、右の手首が軽く痺れている。触覚が薄くなっているのだという理屈は頭にあった。だがそれが、「気づけない」ことの現実だとは、まだ彼は実感していなかった。

ガルドが鋭く指差した。ユウの右手首の包帯に、黒い斑点が滲んでいる。布の端から小さな煙が上がり、焦げた匂いが冷たい空気に混ざった。リラがそれを嗅ぎ取って顔色を変えた。

「ユウ!」リラが叫ぶ。その声に、ユウは初めて自分の手を見る。皮膚の上に、赤い水膨れが小さく盛り上がっている。熱はあるはずなのに、痛みは来ない。歯を食いしばっても、鈍い違和感しか返ってこない。ガルドがすぐに動いた。点火棒を地面に突き刺し、他の筒を足で押さえつける。その所作は、炎が再び暴れる可能性を抑えるためだ。

「どうして……?」ユウは首を傾げる。言葉に困惑が乗る。リラは被っていた布を外し、冷たい水を含んだ布を差し出した。ミナが駆け寄り、固い声で指示を出す。「まず消毒、次に冷却。急いで。ユウ、自分で触らないで!」

ユウは自分の意思で手を動かせないわけではない。だが、痛みが無いために、どれだけ深刻かを判断できない。ガルドが無言で包帯を剥がし、火傷の範囲を見て、その表情が硬くなった。赤い部分は深く、皮膚の層にまで達している。小さな火種がまだ皮膚の表面で燻っているようだ。ユウは驚きに震えた。もしこれが数分遅れて発見されていたら、もっと酷いことになっていたかもしれない。痛みが彼を止めることができなかったのだ。

リラがものすごい勢いでユウの顔を覗き込んだ。「あなた、金を——!」

その言葉で、ユウの胸の中に凍り付いた記憶が戻る。実験直前、古い金線が目に入ったとき、彼はほんの一瞬だけ金の守りが役に立つかもしれないと考えた。触れてはいないつもりでいたが、彼の手は微かに筒の内側に触れ、金の残り香を編み込んでしまっていた。意図せずに金の熱を薄く差し込み、自分に戻る守りの効果を引き寄せたのだ。守りは本来、外側へ張るもの。中に向けると、痛覚の閾値に影響してしまう。ユウの能力の代償は、こんな形で現れた。

ガルドは冷たい声で言った。「お前が金を編んだのは微量だ。だがそれが、感覚に干渉した。過去の点火士でも、守りを内部に流す愚を犯した者がいる。感覚を失えば、自己の安全確認ができなくなる。火の前でそれほど愚かなことはない」

ユウは顔を伏せた。恥ずかしさ、恐怖、責任の重さが同じ器に注がれて、胃の底を押し上げる。子どもたちの目の前で、この失敗は許されない。仲間たちがどれだけフォローしたかで済むが、その代償は確かに発生した。ユウは自分の無自覚な一手が、仲間を危険に晒したのだと感じた。

ミナが静かに近づいてきた。彼女は避難民区画の代表であり、厳しさと優しさを併せ持つ女性だ。手に持った麻布で、ユウの手を包む。冷たい布に触れられて、初めて少しだけ感覚が戻ってきたように思えた。ミナの目は真剣だったが、怒りは薄い。「あなたは花火を愛している。分かる。でも、ルールを必ず守って。私たちを守るためにここにいるんでしょ?」

ユウはうなずき、声が震えた。「すまない。次からは——」