花火師 第21話「第19章」
朝の露が干された広場に、ユウは声を張った。胸の内で鳴る焦燥を抑えるために、まずは目の前にあることから手をつける──配られた一枚の簡素な紙を、高く掲げる。
朝の露が干された広場に、ユウは声を張った。胸の内で鳴る焦燥を抑えるために、まずは目の前にあることから手をつける──配られた一枚の簡素な紙を、高く掲げる。
「ここに、公開討論を求めます!」
声は木製の天秤台を振るわせ、周囲の人々の視線を集めた。ミナが隣で腕を組んでいる。彼女の顔は眠れなかった夜の影を残しているが、言葉には確固たる重みがある。子どもたちはすぐ脇に固まっていて、耳栓の端がちらりと見えた。あの小さな塞ぎは、彼らがどれほど長く恐怖を抱えてきたかを静かに語る。
「ヴァルナがまた、宣言を出した。『静かな空』の名の下に、さらに地方通信を遮断すると。王都の命令ですって」ミナが低く告げる。周囲から小さなざわめきが上がった。支援金の送金が止まった、材料の運搬が遅れたという噂が、今朝になって急に広まっている。いくつかの工房は圧に耐えきれず、契約を破棄し始めた。
「遮断だって?」ガルドの声は砂利混じりで低い。彼は外套の襟を引き上げ、周囲を計るように目を走らせた。元宮廷点火士の彼は、王都の言葉が無害に聞こえる時ほど危険だと知っている。「通信が切られれば、警報も届かない。王都は『安全』を掲げながら、地方が見捨てられることを選んでいるだけだ」
ユウの手は覚悟を固めるために震えた。今、彼がしたいことは一つだ。広場の中央で民衆の前に立ち、分散防壁の理念と、誰でも扱える安全手順を示すこと。声で、実演で、人々の不安を少しでも瓦解させること。王都の「静かさ」が偽りであると、自分たちの目と耳で示してやる。
だが妨げは大きい。ヴァルナの再発表はただの政策強化に留まらない。監視官が増え、港や道の検問が厳しくなり、王都直轄の配達便は物資に目を光らせる。工房を離脱した者もいれば、内心では従うしかないと諦める者もいる。何より、人々の恐怖──見えない抑圧による沈黙──が、広場を冷たく包んでいる。
「公開討論だって? 王都が許すとでも思っているのか」近くの商人が鼻で笑う。だが、その笑いの端には不安が混じる。業を継ぐ者も、子を抱く者も、誰もが何かに怯えている。
ユウは深く息を吸った。音は内側から外へ広がる合図だ。リラが小さく息を吐き、耳朶を押さえたまま近づいてきた。彼女は音を色として「聞く」少女だ。歩くたび、彼女の頬には薄い汗がにじむが、その目は意志に満ちている。
「子どもたちに聞かせてほしい。大きな音じゃなくて、どうやって合図ができるか。青で道を示して、赤で暖を示す。金は──」リラは言葉を切った。金は守りだ。だが、ユウ自身も知っている。金を扱えば、自分の痛覚が遠くなる。手が燃えても気づかないことが増える。彼女の目がユウを見据える。共に、だと伝えている。
「単独で金を使って見せるつもりはない」ユウは周囲に向けて言った。「それが王都の『秘密』に見えるなら、私たちは違う方法を示す。分散だ。工房ごとに色を担いで、同時に機能する方法を実演する。ここで、今、この広場で。公開の場で手順を示す。記録を、誰のもとにも渡るように」
ガルドが一歩前に出る。顔に疲れはあるが、肩に力が入っている。「実演なら、手順は見せられる。けれど監視は厄介だ。私の名は王都で知られている。ヴァルナ側は私を使って余計な疑念を作るだろう」彼の言葉は短い。名誉を守るのは彼自身の問題だと、ユウは知っている。だが同時に、ここで公に示すことが民意を集める一番の武器だ。
ミナが人混みの中から小さな手を引き寄せる。ひとりの少女──あの耳栓をしている子が、ゆっくりと首を伸ばして広場の中心を見ている。彼女の小さな指が、紙に書かれた討論の呼びかけを触る。ミナの目が一瞬潤む。「子どもたちが自分で選べるようにしたい」と彼女は囁く。「耳栓を外して、合図を選ぶんだ。誰かに決められるんじゃない」
集まりは小さなものから始まった。ミナと避難民代表たちが、掲げた紙を順に配り、近隣の商人、工房の職人、そして通りがかりの労働者が数十人、ついで百人と増えていく。王都の掲示が人々の不安を煽る中で、逆に「自分たちでやる」という風が生まれつつあった。
だがそのとき、空気が変わった。東の通りから数名の王都監視官が、整然とした足取りで入ってきた。黒い装備に銀の紋。表情は冷たい。先頭の役人が一歩踏み出し、朗々とした声で言った。
「ここでの無許可の実演は、公共の安全を脅かす恐れがある。王都は静かな空を守る。皆は解散し、帰還せよ」
群衆のざわめきが一瞬凍る。誰かが咳をし、子どもが指先で耳栓を探る。ミナが顔を上げ、目に怒りの色を浮かべる。「静かな空? あなたたちは音を消すことで、私たちが救われると言うのか。警報を消しておいて、それが安全だと言うのか!」
監視官の一人が手を上げ、命令書を示す。だがそれは長い法文の一端でしかない。ユウはすぐに判断した。逃げるべきではない。威圧で撤収することは、相手の策略だ。人々の前で撤退を見せれば、恐怖は勝つ。逆にここで戦う──言葉で、手順で、民の目で勝負するのだ。
「討論を認めてください」ユウは監視官に歩み寄る。彼の声は震えながらも真っ直ぐだ。「ここは私たちの住処だ。王都の政策が、この地を危険に晒している。皆が選択肢を持てるように、公開の場で議論をするだけでいい。王都の代表が来られるなら、それは歓迎する。隠れた回路について話し合えばいい」
監視官の目がわずかに鋭くなる。役人のひとりがポーチから小さな筆記具を取り出し、記者が来ているか尋ねるような視線をくれた。ガルドがすべり出て、ユウの横に立つ。「討論ならば内容を限定せよ。実演が危険なら、まずは手順の口頭説明から始めればよい」
だが口頭だけでは説得力が足りない。ユウはそのことを知っている。実演がなければ、人々は安全性を信じない。リラが小さく口を噤む。彼女の手が、腰の小袋に触れたまま動かない。そこには彼女が収集した王都防壁の制御音の断片が入っている。記録を流せば、耳栓がただの恐怖ではなく、彼らが消された警報を恐れていた証拠になる。
「私たちは提案する。まず口頭説明を認めてほしい。その上で、小さな実演──音を使った合図のやり方だけを見せる。火薬を使わない、灯りで示すだけだ。後に、場所を限定して実験を行う。監視官にも参加してもらえるなら、手順と安全基準を先に書面で交わす」ユウは一歩も引かない。書面を示すのは、記録の確保だ。公開でやれば、王都も簡単に圧力を行使できない。
監視官は一瞬考え込む。場の空気が凍るように重い。そんな中、ガルドの顔から険しさが消え、柔らかい笑みが浮かぶ。「私はその手順を公に示すことを許す。だが条項を一つ。実演は監視官が指定する安全区域で、監督の下で行うこと」彼は王都側の論理を利用して妥協を導いたのだ。
その条件で合意が成立した。監視官は記録係を呼び、条件を細かく読み上げる。民衆の中で小さな勝利の歓声が上がったが、ユウの胸には焦りが残る。条件は監視官の都合でいくらでも伸ばされる。書類は、記録は、また消されるかもしれない。だがここで立ち止まってはいけない。民意を集める時間は限られている。
準備は即座に始まった。安全区域とされた小さな広場の隅に、赤と青の簡易標識が置かれる。これは火薬を使わない