光を偽る占い師は夜明けを疑う 第4話「第3章」
市場の夜は偽りの光で溢れていた。石畳の縁に立つ灯柱は昼間の太陽に似せた白い光を吐き、露店の影を薄く引き伸ばしていた。だがその光は冷たく、近づくと鉄と古い油の匂いが混じった。レイナは指先で、灯柱の根元に巻かれた青い布切れの端を確かめた。布に染みた黒い焦げ跡が、最初に見つけた補修記録の焼け跡と同じ形で浮かんでいた。
市場の夜は偽りの光で溢れていた。石畳の縁に立つ灯柱は昼間の太陽に似せた白い光を吐き、露店の影を薄く引き伸ばしていた。だがその光は冷たく、近づくと鉄と古い油の匂いが混じった。レイナは指先で、灯柱の根元に巻かれた青い布切れの端を確かめた。布に染みた黒い焦げ跡が、最初に見つけた補修記録の焼け跡と同じ形で浮かんでいた。
「これが補修記録の断片。持ってきた」と、ミオが言いながら、細い手で小さな包みを差し出した。身体をくねらせるように町の路地に溶け込む曲芸師の動きが、夜の市場の雑音の中でひときわ鋭く見える。包みの中には、角が炭化して丸まった紙切れが数枚、赤い紐で縛られていた。紐をほどくと、紙の端から乾いた匂いとわずかな熱が立ちのぼる。
「ここ……四年前」とミオが呟いた。声はいつもの軽薄さを失って、低く硬かった。
レイナは紙の表面に指を滑らせた。燃え残った墨が、行間に歪んだ記録を残している。『偽光塔補修記録 一〇八番支柱 援灯事業』。一部が焦げ落ちたその文言に、近くの灯柱がさも答えるかのように一瞬ちらついた。紙の焼け跡を照らす赤い街灯の光が、文字の列を深紅に染めた。
「援灯事業」——行政の援助だと称して、偽りの光を順次設置していった。ミオの目が、紙の端に押されて残った小さな円形のスタンプに釘付けになった。スタンプは半分欠けていたが、そこには太陽を模したような紋章と、小さな文字が刻まれている。一行、かすれた活字が読めた。「朝……」。それだけで、ミオの顔に怒りが走る。
「これを誰かに見せないと。ただ、ここで叫んでも消されるだけよ。——人は、便利さに目を奪われる。灯りは助けだって、誰かが言ったら信じるの。それで手渡されたら、他に選べなくなる」とミオが言った。彼女の指が、紙の一角を撫でる。指先の感触は、紙の煤よりも冷たかった。
レイナは息をつくと、証綴り袋を取り出した。布製の小袋から、薄い紙片が束ねられたものを取り出す。赤い糸が何重にも巻かれている。証綴りは彼女の道具であり代償でもある。目撃者の言葉を結び合わせるために使うと、微かな共通点を残していた記憶を引き出し、視覚的な証言の輪郭を形作る。しかし、繰り返すほど個人的な記憶が消えていき、救いを強いるような介入をすると呪いは反発して増幅する——その代償を彼女は何度も体で覚えていた。
ミオは躊躇いなく証綴りを指先で撫でた。爪先で軽く叩くと、紅い糸が微かに震え、夜風に揺れる露店の布をわずかに鳴らした。
「使うのか」とミオが問う。彼女の目は市場の灯柱群を一瞬見た。灯りの白さが、道端の顔を寒々と照らす。
レイナはうなずいた。言葉は要らなかった。彼らは路地の奥、古い干物屋の扉を背にして小さな空間を作った。そこには、先に見つけてきたという二人の証人が待っていた。年老いた灯守の男と、昨年から灯柱の修理人として働き始めたという若い女、そして小さな消えかけた篝火の前に震える十代の少女。三人は互いに距離を取り、誰もが自分の影を抑えようとするように座っていた。
「君たちの声を一つにしてくれ」とレイナは静かに言った。証綴りの紙をそれぞれの手の上に置く。紙片が馴染むと、空気が締めつけられるように冷え、心臓の鼓動が自分の耳だけで聞こえてくる。証人の記憶が糸の中で震え、言葉にならない残像がレイナの視界にちらついた。
光景は重なる。四年前の配給広場、木製の台には白い布を被せた箱が並んでいる。役人の列は整然として、手袋越しに何かを差し出す。受け取った者の手首に、細い紐が巻かれ、その場で短い祝詞が唱えられる。祝詞の一節がどの証人の口からも同じようにこぼれ落ちた。「朝の恩寵を受けよ」。紋章の形はスタンプと同じで、太陽の一端が欠けていた。言葉と紋章が繰り返されるたびに、視界の端で人々の目が薄く光り、指先から何かが流れ出るように見える。
視界がぶつかり合う中、レイナは自分の胸の奥に何かが引き出されるのを感じた。記憶の糸が紡がれていくと同時に、自分の中のある断片が薄れていく——幼い日の縁側で、母がこしらえた味噌の匂い、母の小さな手の温度。レイナはその感触を掴もうとしたが、指先が空を切った。焦点がぼやけ、母の声は遠くの鈴の音のように遠のいていった。胸に穴が空くような痛みがあったが、声は止めなかった。
「……皆、同じことを言っている」老灯守の声が震える。口調は枯れていたが、視線は確かだ。「最初は援助だ。壊れた家のための灯り、夜道のための灯り。金を集める名目もあった。だけど──取り付けの儀式の後、家族が変わった。子供が夜泣きしなくなる代わりに、昼間に反応を起こす。言葉が減る。働けと命じられれば働く。別の選択肢を思い出さない、と」
若い女の頬に涙が伝った。「父さんが……『灯りに守られている』って言ってた。あの日、役人が来て、父さんは手首に紐を巻かせた。『恩寵だ』って。翌朝、父さんは仕事場に戻ったまま帰らなかった。誰も止められなかった」
十代の少女は、指先を見つめたまま小さく唸る。「私は行列で受け取った。あの日、私の友だちが──彼女は声を出して止めようとした。役人は『選ぶことは怖い』って言った。でも友だちが返事をしないうちに、役人が光を掴んで、彼女は笑った。笑ったままで、二度と違うことを言えなくなった」
証綴りの糸が震え、見せられた光景は一つに収束していった。レイナの脳裏に、官署の書式、支給表の数字、補修の記録の改ざん記述、そしてその下に押されていた同じ紋章。制度のための記録。個々の悲鳴が手をつないで、大きな形を作り始める。だが同時に、忘却の影がレイナの中で広がった。母の笑い、幼い日の通りの名、最初に占いの術を学んだ路地の匂い——小さな、しかし確かな自分の根が緩んでいく。
「やめて」ミオの声が割れた。「それを……そんなに取る価値があるの? 君の記憶が……」
レイナは首を振れなかった。声は出せるが、言葉に力がない。証綴りはさらに深く紡がれ、記憶を差し出すほどに、証言は豊かになる。目撃の輪郭が明確になり、レイナはそこに文字を書き写すように真実を引き抜いた。補修記録の焼け跡の裏からは、設置担当者の名簿の断片が姿を現した。名簿の行と行の間には、同じ符丁が繰り返されている。それは「A-3」、補修区分を示すだけのように見えるが、証人の一人がその符丁の書かれた腕章を見たと告げるとき、レイナの視界は一瞬赤く揺れた。
そのとき、市場の向こう側で鈴の音が高まり、灯柱の一つが異常な燃え方をした。白い光の中に赤い裂け目が出来、周囲の街灯が相互に反応するかのようにゆらぎ始めた。老灯守が顔色を変え、体を起こす。
「出力が上がっている!」若い女が叫んだ。「誰かがスイッチを入れた!」
外に出ると、通りの向こうで人々が驚きの声を上げていた。灯柱が赤くなり、光の中に浮かぶ人々の影がぞわりと歪む。警備服の男たちが駆けてきて、だれかを押しやり、路地に入ってくる。レイナは胸が締め付けられるのを感じた。そこにいた十代の少女の顔が青ざめ、手首に古い紐の痕があるのをレイナは見た。痕は、証綴りで見た紋章と同じ形をしている。
「助けるべきだ」ミオが言った。だが、その声には硬い覚悟が混じっていた。彼女はいつもの軽やかさを消