夢を税にする司祭は愛した人を裁く

夢を税にする司祭は愛した人を裁く 第7話「第6章」

石造りの地下礼拝堂は、眠りと目覚めの境目のようだった。低い天井から垂れ下がる灯芯が揺れ、蜜のように甘い煙が空気に溶け込む。床にはうずくまった者たちが長く列をなしていて、薄布で目を覆ったままうなされている。壁の隙間から冷たい風が入り、誰かの歯ぎしりが鼓のように響いた。

石造りの地下礼拝堂は、眠りと目覚めの境目のようだった。低い天井から垂れ下がる灯芯が揺れ、蜜のように甘い煙が空気に溶け込む。床にはうずくまった者たちが長く列をなしていて、薄布で目を覆ったままうなされている。壁の隙間から冷たい風が入り、誰かの歯ぎしりが鼓のように響いた。

「ここまで来たんだ、エリオ」リラの声は震えていたが、言葉には揺るぎがあった。薄手のマントをまとった彼女は、小さな鉄箱を掴んでいる。箱の中には偽の徴収券や、細工の仕掛けが詰められていた。彼女はそれを使って監視の注意を逸らすつもりだ。

カインは礼拝堂の入口に立ち、鋼鉄の痕跡が残る手袋で扉の重さを確かめた。彼の体温の高さが、隙間に座る眠者たちの冷えをほんの少しだけ和らげる。かつては王側の兵だった彼の瞳は、今や守る側の静かな怒りで満ちていた。

エリオは、胸にぶら下げた小さな硝子のロケットに触れた。中には細い髪が一筋巻かれている。ミレイの、淡い栗色の髪。香りはもう分からない。指先がわずかに震え、そこに確かに在ったはずの記憶の縁がぼやけているのを感じた。夢を束ねるたびに欠けていくという代償は、彼の中で現実の形を取り始めていた。

「手順を確認する。三人分、同意の証言として束ねる。公的効力はその数で成立する」エリオは低く言った。彼の銀の聖典は今や証言の器であり、器の縁には呪いの熱が宿っていた。

リラは小箱を開け、細い糸を取り出す。それは監視用の小道具に見せかけた拘束の道具だ。「私は入り口で囮を作る。カイン、君は退路の確保。エリオ、あなたが束ねる。だが——」彼女は言葉を切った。「強制はしない。私たちは、当事者の言葉を紡ぐだけだ」

エリオは黙って頷いた。能力の条件はここにある。夢は一人の幻として現れるが、法的な力を持つには“当事者”の言葉として反復されなければならない。彼はそれを『束ねる』ことができる。だが束ねるほど、彼自身の記憶は薄くなり、救済を強制するほど呪いは暴走する。今日、彼らは裁きを行う一歩手前だった。だが対象は、エリオが最も愛した人、ミレイの関係に絡む者たちである。

最初の眠者は、炭火のにおいを漂わせる年老いた男だった。彼の夢は湿った土壌で、手に泥の塊を握りしめていた。エリオはゆっくりと距離を詰め、左手を男の額に置いた。温度はぬるく、鼓動が伝わる。聖典の頁を開くと、薄い光が指先から流れ出した。

「話してくれ。目を開ける必要はない。ただ、あの夜のことを、あなたの声で」エリオの言葉は柔らかかった。だが言葉を繰るたび、胸の底から一本の糸が引き抜かれるような感覚があった。皮膚の下を何かが滑り、細かな欠片が風に飛ばされる。

男の夢は言葉へと形を変えた。湿った土に埋められた手、火を守るために差し出された背中、子供の泣き声。彼の声は囁き、だがその囁きは確かに「私がやった」と繰り返した。エリオはそれを聖典の頁に呼び寄せ、指で結び目を作る。小さな光球が生まれ、空気を震わせた。

光球が消えると、エリオは確かに一つの記憶を失った。ミレイが初めて笑った日の詳細が、曖昧になっていく。夕暮れの匂い、着ていた赤い外套の裾、そして彼女の笑い声がどのように鳴ったか——それが、稲妻の後の夜露のように、色を失った。

「エリオ、大丈夫か?」カインの声。だが答えは、すでに消えかかっていた。彼はミレイの名前を口にする前に、知らず知らずに一瞬躊躇した。自分が何を愛したかを確かめる指先が、すり減っていくような感覚。恐怖が胸を締め付ける。

二人目の眠者は、若い女性だった。顔にあざのような模様があり、夢の中では彼女が高いところから飛び降りようとする子供を抱き留めていた。彼女は泣きながらも「助けた」と言った。その言葉が、エリオの思考の回路を撫でるたび、彼の過去の記憶のいくつかが霧散した。ミレイと交わした約束の一節が、ページの切れ端のように消えた。

三人目の眠者は最も若く、手のひらにインクの匂いが残る少年だった。彼の夢は、群衆の中で誰かが叫ぶ声を聞いた瞬間だった。少年は叫びに応えず、黙って去った。彼はそれを「知らなかった」と言った。エリオの聖典はその言葉を受け取り、結び合わせた。

三つの証言が束ねられたとき、聖典の頁は一枚の映像を放った。礼拝堂の壁に投影されたのは、巨大なパノラマのような夢の断片で、夜の路地、差し伸べられた手、そしてある女性が背を向けて走る姿だった。群衆の顔がその光景にこわばり、息を呑む。光はミレイの財布に付けられた小さな布切れを映した。彼女が誰かをかばい、背負い、逃がした形跡がはっきりとあった。

だが映像が全てを語るわけではない。投影された光景は、観る者の心の中に欠片を差し込む。誰かはそれを「裏切り」と見、誰かは「救済」と見た。法廷は白黒を欲するが、夢はいつも灰色を指した。

そのとき、礼拝堂の入口で鉄の音がした。外の廊下を軍靴が走る。誰かが密告したのか、或いは予定調和の厳格な監視が彼らをつかんだのか。リラは顔を引き締め、箱を抱えて立ち上がった。

「時間だ。外が来る」彼女は呟いた。「私が囮になる。カイン、あなたは出口の扉を塞いで」

カインが動いた瞬間、扉の外から声が降ってきた。低く整った声で、礼拝堂の壁を叩きながら呼びかけている。「礼拝堂に立ち入る者は、王の法の下において尋問を受ける。協力すればその場で寛大に処置する」

声の主は権威の味方だった。だが男の声の文言には微かな不安が混じっていた。リラは箱から小さな紙片を取り出し、紐を引くと轟音が上がる。燐光の煙が天井に広がり、外の視界を一瞬狂わせた。

「今だ!」リラが叫んだ。彼女は外の廊下へ飛び出し、兵たちの視線を操るために偽の書類をばらまいた。カインは扉を押さえながら、足で扉の木枠を固めた。その力任せの行為の中で、彼の手が滑って聖典の隅をかすめた。紙がめくれ、そこに記された文字が暗く震えた。

エリオはその瞬間に決断を迫られた。兵士らが扉を殴るごとに、礼拝堂の空気が圧迫される。眠者たちのうめき声が増し、夢の映像は不安定になってきた。もし彼がここで束ねた映像を公的な場で示せば、ミレイに重い判決が下るだろう。だが示さなければ、逃げた者たちの罪はうやむやにされ、徴収の制度は続く。

「エリオ!」リラの声が闇から戻ってきた。彼女の顔は血のように紅く、髪は乱れている。「彼らは、ただの徴税官じゃない。夢徴室の監督だ。あの連中が来れば、私たちの行為は一晩で消される」

カインは息を切らせ、眼差しをエリオに戻す。「ここで止めるか、押し通すか。どちらにせよ代償はある」

エリオは聖典を右手で抱え、左手でロケットを掴んだ。胸の奥で何かが引きちぎられるような感触が走った。ミレイの笑い、レースの縁の感触、約束の言葉——その一つ一つが漠然とした霧の中へ吸い込まれる。彼は思い出したくて必死になるが、指先に残るのは空白だけだった。

「誰かを救うために、記憶を差し出す。それであっても、君は正しいと——」カインは言葉を止めた。彼は強いが、論争を好まない。リラは床に膝をつき、息を整えながらも決して目を逸らさなかった。

エリオはゆっくりと口を開いた。「俺は——一人で裁くことは、もうできない」その宣言は、自分でも驚くほど