夢を税にする司祭は愛した人を裁く

夢を税にする司祭は愛した人を裁く 第23話「第21章」

トンネルの空気は湿り、鉄と古い土の匂いが混ざっていた。足音が反響し、火のない場所では呼吸の音だけが濃く聞こえる。アレンは、指先で十字架の端を軽く撫でながら、先頭の松明を担いだマルコの背中を追った。耳の奥にまだ、徴夢局の新しい動きの知らせがこびりついている。夜間の巡回路が変わった。深層に「何か」が仕込まれた。彼らはその兆候を察知し、地下道を使って被徴収者たちを外へ出す計画を実行していた。

トンネルの空気は湿り、鉄と古い土の匂いが混ざっていた。足音が反響し、火のない場所では呼吸の音だけが濃く聞こえる。アレンは、指先で十字架の端を軽く撫でながら、先頭の松明を担いだマルコの背中を追った。耳の奥にまだ、徴夢局の新しい動きの知らせがこびりついている。夜間の巡回路が変わった。深層に「何か」が仕込まれた。彼らはその兆候を察知し、地下道を使って被徴収者たちを外へ出す計画を実行していた。

「ここから先は狭い。二列で行くぞ」マルコの声が低く響く。サナが地図を小さく折りたたみ、ユカが包帯で最後の荷を縛り直す。避難者たちの寝袋と、持てるだけの食糧、あと──アレンが抱えた藍染めの布包み。中には証言を束ねるための小さな符束が入っている。連証。彼が司祭として、そして「夢を税にする」制度の暴力を暴くために使う術だ。

「アレン、慎重にな」ユカが囁く。彼女の掌にはまだ、先ほど助け出した男の手首の冷たい震えが残っていた。外での強硬な摘発は、彼女の治療でも届かない傷を残していた。

トンネルは長かった。水滴が眉間に当たり、暗闇の中で光の輪が揺れる。誰かの靴底が弾く小石の音、遠くで金属が擦れる音が幾度かわずかな緊張を生む。避難行は退路でもあったが、同時に選択の重さを運んでいた。逃げる者、残る者、そして徴税の制度の内部で変えようとする者──イザベルはその代表だった。

彼女は最後の分岐点で足を止めた。短い黒髪に泥が点々とつき、顔は白く、でもその瞳は不思議と静かに燃えていた。アレンは彼女を見ると、胸がざわついた。イザベルは、徴税局の配給窓口で働いていた者だ。彼女は微笑みを浮かべるでもなく、ただ静かに言った。

「私、ここを去らない。逃げることはできる。でも……私は中に残るほうが、変えられる可能性があると思うの」

「それは危険だ」マルコがすぐに切り返す。彼の声には刀を振るうときのような確信が残っている。「外へ出るんだ。ここにいることは彼らの餌食になるだけだ」

「そうだとしても」イザベルは肩を小さく竦めた。「もし私が残れば、誰かが裏から資料を抜ける。誰かが徴夢局の内部手順を暴ける。あなたたちが外から救済を強いる――それは確かに私たちを守る時もあるけれど、強引な救済は呪いを増幅する術になる。あなたたちはその代償を知っているはずだ、アレン司祭」

その名が口に出ると、アレンの胸に冷たい痛みが走った。知らずに彼は掌に持った十字架を強く握りしめた。イザベルの視線は揺らがない。彼女は既に仲間の一人として、あるいは同胞としての選択を宣言していた。

「私は申請書を抜く方法を知っている」イザベルは続けた。「しかし、外から無理に手を伸ばすと、夢は反発する。徴収を中断させれば、夢は暴走して周囲の無関係な者の眠りをも損なう。あなたたちはそれを何度も見てきただろう」

アレンは記憶の裂け目を探った。連証という術を使うたびに、彼は小さな片鱗を失ってきた。最初は、セリナの笑った時の唇の端が薄れていった。次には、彼女が夜にくれた小さな紙切れに書かれた言葉の輪郭が消えた。今は、その細部が、まるで水に溶ける墨のように、書面から薄れていくのを感じていた。思い出を武器にするたび、彼は自分自身から一枚ずつページを剥がしていた。

「だからこそ」アレンは低く応えた。「僕たちは、君の選択を尊重する。だが、君が内部で動くなら、安全策を整える。資料が抜けると同時に、外で君を援護する者を用意する。誰も強制はしない。私たちは、選ぶ自由を守るためにここにいる」

イザベルは一瞬だけ唇を緩めた。それが合図になったのか、避難列の一角でささやきが起きた。年老いた婦人が泣きながら荷物を抱えている。小さな子供の口元からは鼻水が光る。誰もが何かを抱えて決断している。逃げることは安全ではあるが、後ろに残る人々の決定が、そのまま「参加の象徴」へと変わる可能性を孕んでいる。アレンはその均衡を思った。

だが、トンネルの終盤で、金属の擦れる音がふいに高鳴った。前方に設置された小さな光源がパッと明滅し、人影が現れた。徴夢局の巡回隊だ。新しいツールを手にしていた。白い筒が複数、隊列の腰にぶら下がっていて、その先端からは銀色の糸のようなものが垂れている。

「夢針か……」サナが小さく息を飲んだ。見た目は無害な器具だが、それが「改良された徴収方法」であるとアレンは直感した。彼らは人々が眠っている間に刺し、遠隔で夢を引き抜くことができるようになっていると聞いていた。何より問題なのは、強く引き抜くと夢の反発が周囲に撒き散らされ、無差別な悪夢を生む性質があることだ。強制的な救済は、その反発を利用して徴税効率を上げるため、徴夢局はそれを局所的に強化している。

「止めろ!」マルコが前に出る。彼は兵としての本能で突き進もうとした。だが、イザベルが腕を掴んだ。彼女の瞳には静かな怒りがある。

「やめて!彼らを無理に引き離せば、今ここにいる全員の夢が引き裂かれる。あなたはそれでもいいの?」彼女の声が振動して聞こえる。マルコは手を止め、息を荒げて地面を見た。

隊員たちは冷たく効率的に動いた。白い筒が一つの老人に向けられ、先端から細い糸が伸びて皮膚をなでるように接触した。老人の顔が瞬時に引き攣り、小さな呻きがあがる。銀色の糸が織りなす光の粒が、老人の胸から浮かび上がり、空中でゆっくりと集められていく。集められた光は小さな瓶のような容器に吸い込まれ、そこに淡い夢の映像が閉じ込められていく。

だが、次の瞬間、その光は爆ぜた。薄い膜が破れたように、叫びに似た音がトンネルに響いた。老人の周囲に黒い影がうねり、壁面に貼られた苔が一瞬で腐り落ちるように、周囲の空気がざわついた。避難者たちの目が白く濁り、子供が嗚咽をあげる。夢が引き抜かれた者の反発は、周囲の眠りを痛めつけ、夢税そのものを暴走させる。マルコの肩に冷たい汗が噴き出す。

「見ろ」アレンは声を絞り出した。「これが強制だ。救済を急ぐほど、呪いは広がる。だから私たちは、人々の選択を尊重しなければならない」

ユカが老人の横に駆け寄り、呆然とする彼の額をさする。老人の手は力なく垂れ、瞳孔が散っている。徴夢局の隊員は無表情に器具を片付けると、次の地点に向けて歩き出した。彼らの姿にはためらいもない。それが制度の冷酷さを示していた。

トンネルの静寂が戻ったとき、イザベルがアレンに近づき、小声で言った。「外からの援護は私を弱く見せるかもしれない。あなたたちが来てくれるのは助かる。だが、私がここに残るという決断は変えない。それを認めてくれるか?」

アレンは目を閉じた。記憶の一部が再び手の届かないところへ滑り落ちるのを感じた。連証を使う度に、彼はセリナの手の温度さえ正確に思い出せなくなる。今、彼は選択を迫られていた。仲間として人を救うか、愛した人を裁くための記憶を温存するか。だが、問題は個人の答えで終わらなかった。救済の方法一つで多くの人々の眠り、選択、未来が変わる。

「……君が残るなら、私たちは外でその道を開く」アレンは静かに答えた。「私は君を助ける。だが、強制はしない。誰も強いることなく、選べる余地を作る。それが、僕たちの方法だ」

イザベルは小さく頷くと、懐から小