夢を税にする司祭は愛した人を裁く

夢を税にする司祭は愛した人を裁く 第20話「第18章」

舞台は暗幕に包まれていた。重く湿った布が四方を囲み、外の街灯の黄が届かない。床板は古い劇場のそれと同じ低い鳴りを抱えていて、足音が通るたびに木の匂いと埃が立ち上る。スポットライトはまだ当たらず、かすかな装飾燈だけが舞台の縁を淡く照らしていた。練習用の舞台装置、紙の断片、折り畳まれた椅子。そこに、ルカは立っていた。司祭の装束はいつもの黒ではなく、白い襟と薄手の外套を纏っていた。手には細い糸のような光を見立てた式具が握られている。

舞台は暗幕に包まれていた。重く湿った布が四方を囲み、外の街灯の黄が届かない。床板は古い劇場のそれと同じ低い鳴りを抱えていて、足音が通るたびに木の匂いと埃が立ち上る。スポットライトはまだ当たらず、かすかな装飾燈だけが舞台の縁を淡く照らしていた。練習用の舞台装置、紙の断片、折り畳まれた椅子。そこに、ルカは立っていた。司祭の装束はいつもの黒ではなく、白い襟と薄手の外套を纏っていた。手には細い糸のような光を見立てた式具が握られている。

「行くよ」とエリナが低く言った。彼女は手に薬袋をぶら下げ、顔に疲労の影が見えたが、声は平静だった。シオンは拳を握りしめて舞台袖に立ち、トールが古い筆写帳を胸に抱えている。ミナは最後列から前のめりになり、指先を噛んでいた。

ルカは目を閉じ、息を整える。結帯——彼が人々の夢の断片を紡ぎ、ひとつの「証言」として形にする術だ。法廷で有効とされるには、断片が一貫した語りになる必要がある。それを一人の当事者の証言に見せる力が、ルカにはあった。だが同時に、結帯は代償を持つ。糸を強く引けば引くほど、彼の内側の結び目が解かれ、記憶という名の珠が白い砂となって零れていく。

光の糸を指先で撫でると、周囲の音が遠ざかった。夢の断片がささやきとして降ってくる。小さな寝息、濡れた草の匂い、朝焼けの色、子供の手の温度。ルカはそれらを掬い上げ、一つの筋に結っていく。声は耳元で絡まり、舞台の暗さに銀の線が走るようだった。

最初は、些細なものだった。ルカの左手が一瞬、襟の結び方を忘れ、指先で無意識に襟を探った。エリナがそっと手を出して、彼の手首を取る。「落ち着いて」と囁く。その囁きに振り向くほどの余力は、ルカには残っていなかった。結ばれる夢は鮮烈だった。貧しい市場の売り声、病人のうめき、子供が数える数字。すべてが一つの線に沿って並べられていく。

しかし、束ねるほどに、彼の内側が薄くなる。目の奥にあった描き込みが剥がれていくような感覚。最初に消えたのは、アンナの笑いの抑揚だった。ルカはそのことに気づいた瞬間、胸の奥が瞬時に冷えた。笑いの余韻が、彼の記憶の引き出しから滑り落ち、絵のように細い筋になって床板の隙間へと流れていく。

「ルカ?」シオンの声が鋭く舞台に入る。彼は振り返ろうとして、顔が少し歪む。目の前の記憶が白い紙のように浅くなり、手のひらにあった何かが曇る。アンナの顔の輪郭、彼女がいつもかけていた小さな金の髪留め——それが、まるで霧の向こうの物語の一部になっていく。

「そんなに引きすぎるな」とトールが促す。彼は筆写帳を開き、夢の断片を文字に起こそうとしたが、筆が震えた。結帯で形成した証言には、式の術的な確度が必要だ。資料だけでは法廷は動かない。ルカだけが、他者の断片を当事者の語りに「変える」ことができた。

「止めるべきだ」とシオンが言い、足を踏み出した。だがそのとき、ミナが割り込んだ。彼女は被徴収者たちの一人から借りてきたらしい、小さな藁人形を掌に持っている。「法は、夢を税として徴収する瞬間を云々って……でも、私たちがやるなら、強制はしない。選ぶ余地がないと意味がないのよ」ミナの声は震えていたが、確固たる意志がこもっていた。

トールは古い巻物を取り出し、舞台の光でページをめくった。「だが、現実的には。〈結帯の証〉がないと公開討論を主管する官吏は証拠を認めない。王府の規定はここにある。自発的な証言は尊重するが、法的効力は別だ」

その瞬間、ルカの掌が異様に熱くなる。彼は、試験的に「救済」を強制するような結びを一回だけ――小さな悪意の夢を光に晒すような形で、運用を試した。目的は簡単だ。夢を税にされた者の苦しみを、苦しみを与えた構造の前で可視化すること。だが強制は、何かを噛みつくように暗い反応を返した。

舞台の影がうねり、暗幕の縫い目から黒い粒子がふわりと舞った。最初は紙屑のように見えたが、それらは羽虫のように舞い、低い声の共鳴になって会場を満たした。エリナは顔をしかめ、薬袋の紐を握り直す。被徴収者のひとり、若い男の肩が震え、ぶるりと痙攣が走った。夢の中の苦痛が、強制によって逆流したのだ。叫びは舞台で捻じれ、合成された証言よりも凶暴になって会場にしみ出す。

「増幅してる!」ミナが叫んだ。声は嗄れていた。トールは、巻物を叩きつけるようにして口を開いた。「結帯は――救済を義務づける形で組成されると、呪いの共鳴を呼び起こす。被害の解消を外部から押し付けることが、呪いを深める仕組みの一端らしい!」

ルカの頭の中で、何かが割れる音がした。彼は急に、アンナと交わした約束の言葉を一つずつ思い出そうとしたが、そこに隙間がある。彼女の手を握った時の温度、あるいは夕暮れに嗅いだコーヒーの渋さ。どれも表面だけが残り、芯が抜けている。彼はびくりと肩を震わせ、口からもたらされた言葉がつぶれる。

「じゃあどうすればいいんだ!」シオンの怒声が響く。彼女は浅く息をつき、刃のような冷たさで皆を睨んだ。「ここで結んで丸投げするなら、それは裁きじゃない。憎悪の再配分にしかならない」

エリナはルカの前に膝をついた。彼女の目は熱を帯びている。治療者として、記憶はその人の身体と等価であると知っている。ルカの記憶が失われるごとに、そこにあった人格の輪郭が薄れていくのが彼女にはわかった。「ルカ、あなたがいなくなってしまう前に、別の方法を試しましょう」と囁く。だが彼の手はまだ、白い糸を握っている。

トールが立ち上がり、持っていた筆写帳を皆に差し出した。「法廷でどう扱われるかは理解している。だが我々には時間がある。被徴収者たち自身に語ってもらうための場を作る。結帯を使うなら、それは最後の最後に限定する。しかも救済を押し付ける形での結びはしない。合意なしに救済を押しつけると、呪いが膨らむ。それが今日分かった事実だ」

ミナは顔を上げ、舞台の暗がりの中で拳を固める。「それなら私が走る。被徴収者を集め、彼らに話すように頼む。選択肢を持たせるのよ。あなたが一人で記憶を削り続ける必要はない」

シオンは、短く吐いた息に決意を乗せた。「私たちはやる。だが、ルカ、もしあなたがその力を使うなら、もう無理はするな。私が止める」

ルカは口を開こうとしたが、出てきたのは哀しげな笑いだけだった。その笑いはほんの些細な調子を欠いていて、誰もがそれが彼の記憶から一つを失った証だと直感した。エリナは握った手の中の震えに気づき、そっと唇を寄せる。嗅覚に残ったアンナの使っていた香りは、もはや彼の中に無く、それがさらに彼の顔を曇らせた。

舞台の端で、シオンがゆっくりと一歩前へ出た。彼女は剣の鯉口を切るように手を払う。その動作には、稲妻のような即決性があった。「私が、共有の結び手になろう」と彼女は言った。言葉は荒々しく、だが真剣だった。「あなたが失うものを、私がいくつか受け取る。そうすればあなたは、最も大事なものを失わずに済むかもしれない」

その瞬間、舞台上の空気が固まった。ルカはシオンを見た。顔に浮かぶはずの安堵の色を呼び出そうとしたが、それは遠い。彼はその名を――その顔に結びつく名前を呼ぼうとして、唇が震え、しかし何も出てこなかった。

シオンの右手