夢を税にする司祭は愛した人を裁く

夢を税にする司祭は愛した人を裁く 第18話「第16章」

書庫の空気は紙と埃と古い油の匂いで満ちていた。薄暗いランタンの揺れが棚の背をすすり、指先に触れるたびに紙縁がかすかに音をたてる。アシェルはその音を鼓動の代わりに聞いた。胸の奥で、まだ消えないセリナの笑いの輪郭を確かめながら、彼は一歩一歩を刻んだ。

書庫の空気は紙と埃と古い油の匂いで満ちていた。薄暗いランタンの揺れが棚の背をすすり、指先に触れるたびに紙縁がかすかに音をたてる。アシェルはその音を鼓動の代わりに聞いた。胸の奥で、まだ消えないセリナの笑いの輪郭を確かめながら、彼は一歩一歩を刻んだ。

「ミカ、ルカ、トウヤ、配置確認。扉の監視は頼む」
ミカエラは低くうなずき、息が白い。彼女の指は細いが確かで、鍵穴の動き方を知っている。ルカは書庫の索引棚の影に溶け込み、トウヤは入口で背を向けることで外部の気配を遮っていた。四人はそれぞれ自立した目を持ち、アシェルの命令をただ待つのではなく、瞬間ごとに選んで動いている。

「目標は記録群一、庶務台帳。夢税の徴収に関する直接の証跡があるはずだ」
アシェルの声は低かった。彼は結帯を結ばずに情報を得る方法を選んだ。結帯──夢と自分を繋ぐ縄。やると記憶の代償が確実に重くなる。あと一度、いや、もう二度もそれを使えない。だが、ここにある記録は、一人では拾いきれない。本当に「証言」として束ねられる形でなければ、法廷にも共同体の前にも出せない。

棚に手を伸ばし、重い帳簿を引きずり出したとき、床板が一瞬きしんだ。音が小さく、ではあるが確実に、外の通路にまで伝わる。ミカが指で口元を押さえた。アシェルはその抑制の存在を感謝して、ページをめくった。縦長の列に並ぶ数字、印、そして──端の余白に手書きの短い注記。そこに固まった墨の字があった。

「ここに、"保全者名:セリナ・アシェル"って……?」
ルカの声が棚の陰で震えた。アシェルの指先が滑り、ランタンの光が彼の掌の皮膚を透かした。血管の青い線が、少しだけ見える。胸の奥に、熱いものが落ちる感覚。彼はセリナの名を見たときに知らず吐息を漏らし、ページから離れた。

「保全──。どういう意味だ?」
トウヤの声音は刃物のように平坦だった。ミカエラがゆっくり近づき、注記をのぞき込む。文字の横には小さな刻印、暗い赤の封印が押されている。それは庶務台帳の管理者が持つ印とは違い、中央の紋章に似ていた。中央──つまり、宰相府か、あるいは聖務庁のどちらかだ。

「アンナがここにいる。夜勤の小役人。彼女なら、直接見たことを話してくれるかもしれない」
ルカが囁いた。アシェルは頷き、そっと帳面を閉じた。ここからは他人の夢を、当事者の証言として束ねねばならない。しかし彼は結帯を回避している。だからこそ、彼はひとつの選択をする必要があった──できるだけ情報を引き出すために、外側から証言を積み上げる手法を取る。しかしその「外側」には、誤差と欠落が宿る。

「アンナは書庫の奥の監視室にいる」
ミカが小声で言った。「昼間はほとんど出てこない。今夜は書類整理の当番らしい」

彼らは音を立てないことを約束して、棚の迷路を滑るように進んだ。監視室の扉は古く、擦り切れた革のようにきしんだ。ルカが鍵を器用に解いて中に入ると、アンナは小柄で、眠気にまどろむ目をしていた。明かりが彼女の頬を照らすと、肌の下で脈が固い黒い糸のように動いているのが見えた。夢税の徴収は、庶民の眠りにまで食い込んでいた。

アンナが顔を上げた瞬間、アシェルは驚くほど強く心が振れた。彼女の目の奥に、数えきれない顔の断片が浮かんでいる。それは、徴収された夢の残滓だ。誰かの笑い声が縫い付けられ、誰かの子守歌が引き裂かれていた。

「何の用ですか」アンナは問い返すとき、すでに職務の訓練で磨かれた防御をかけた。

「あなたが書き残している注記について、話が聞きたい」
アシェルは静かに席に近づき、彼女の横に座った。距離は充分にある。結帯は結ばない。彼は自分の半径内にある者たちの生の声を集めるつもりだった。

だが、アンナのまどろみは浅く、夢の欠片は不安定で、情報は砂粒のように滑り落ちる。アシェルは喉で唾を呑み、「一緒に見えるか」とだけ囁いた。彼女は首を振りかけ、そして──

「見せるなら、持っていきます。全部じゃないかもしれないけど……」アンナの声は震えた。「私、見てしまったんです。徴収日の昼に、夢が整列して……そして消えるところを」

その一言で、アシェルの内側に仕舞われていた能力が、反射的に動いた。彼は誰かの夢の真ん中で光る断片を捕らえるために、自分の手を伸ばした。だが彼は、自分で結帯を結ぶのではなく、当事者であるアンナが持つ証言の断片を紡いで「証言の束」として形にしようとした。つまり、彼の能力は、他者の記憶の残響をまとめ上げることで真実を作るのだ。しかし、そのとき、彼の内側にあるルールが厳然と働いた。

一人ではなく当事者の声として束ねる──それは成立した。アンナの目が閉じ、その奥で夢の列車が走る。アシェルは視界の端にアクセントとして光る映像をつかみ、それを一本の言葉に圧縮した。アンナは言葉を紡ぎ、ルカとミカがメモを取る。三人の証言が重なったとき、事実は固まった。夢が帳簿に変えられ、税という名の切片として国家の鞘に収められている。だが、その行為の余波がすぐにやってきた。

吸い出すたびに、何かがアシェルの内側から剥がれ落ちていく。最初は小さな欠片だった。セリナの右手の指先の冷たさ、いつも垂れていた雀の飾り、そうした細部がぼやける。アシェルはそれを振り払おうとした。だが次の束ねで、彼女の笑いの旋律が音として薄くなった。二度目はもっと深く、朝焼けの色が抜けていった。彼は気づいた。自分が真実を武器にするほど、セリナの記憶が薄れていく。代償が、ここに在る。

「やめろ、アシェル! 無理はするな!」ミカが叫ぶ。声は小さかったが、そこに怒りがあった。ルカは帳面をアシェルの手元に差し出し、冷たい紙の端が彼の指の間で震える。トウヤは入口の方を睨んだまま、背中の筋肉が固まっている。

アシェルは息を吐いた。胸の中にあるセリナの名が、薄紙のように音もなく裂けるのを感じた。彼はもう一度問いを投げた。アンナの夢の中で見た「保全」の刻印が、どのように付けられるのかを。

「……封じられるのではなく、移されるの。夢の所有者から、名簿へ。そこには"保全"と書かれて、持ち主の同意は要らない。上の命令で、特定の名前に印を押し、次の徴収日まで残すだけ」アンナの指先は微かに震え、彼女は自分の言葉に呪縛されるように目を見開いた。「その人は、もはや自分の夢を持たない。国が持つの」

「誰がその印を決める?」アシェルは食い下がった。

アンナはしばらく黙り、紙の上に落ちた埃を指でなぞる。「"枢密座"って。夢塔の管理団体よ。そこに直送されるらしい。庶務で回ってくる印は、小さなものだけど……本体は夢塔。そこに集められ、調律されるんです」

その瞬間、遠くの方で低い共鳴が走った。書庫のランタンが一瞬瘦せたように光り、埃が空気の中で揺れた。ルカは即座に窓のそばを確かめ、外の路地で誰かが呻く声を聞いた。夢塔──それは中央の装置。夢を格納し、税という形で配分し、必要ならば夢を再配分するという噂の中心だ。言葉だけでなく、実物の存在がここにあると示された。

「枢密座――夢塔が中枢なら、ここにある台帳はその片鱗に過ぎない。だが、"保全者:セリナ・アシェル"の一行がある意味を持つ」アシェルは唾を飲み込み、紙の端