夢を税にする司祭は愛した人を裁く

夢を税にする司祭は愛した人を裁く 第17話「第15章」

波が遠く、冷たい。夜明け前の海はまだ色を持たず、灰色の縁だけが地平に沈みかけている。砂は湿っていて、足の裏にきゅっと吸いつく。アマヤ・レンはマントの裾を握りしめ、指先がしびれるのを感じた。息を吐くと白い蒸気が口元で小さく砕けた。

波が遠く、冷たい。夜明け前の海はまだ色を持たず、灰色の縁だけが地平に沈みかけている。砂は湿っていて、足の裏にきゅっと吸いつく。アマヤ・レンはマントの裾を握りしめ、指先がしびれるのを感じた。息を吐くと白い蒸気が口元で小さく砕けた。

「ここで話すのがいい」イトが言った。薄い紙袋を指先で揉む、いつもの癖だ。イトは小さな町の記録係だった頃の名札をいつも隠し持っている。夜の海の向こう、僅かに東の空が明るくなりかけている。三人のほかに、サイ、ミア、ユキが輪になって座っていた。波の音がメンバーの心拍のようにかき鳴らされる。

「誰が先に話す?」ミアが口を開く。彼女は手に包帯を握りしめ、指先の白さが痛々しかった。街の夜診療所で人を助けてきた。誰も彼女の過去を完全には知らないが、今はそれが問題だった。

ユキが静かに前に出る。いつも通りの顔に見えたが、その目の奥に酸っぱいものが渦巻いているのが見えた。彼女はかつて夢税の徴収員の一員だった。今ここにいる理由は、それを止めるためだけではなく、自分の手で何かを償うためだと言った。

「私からでいい」ユキの声は海風に流されそうだったが、しっかりと乗ってきた。「私は……人の夢を数えて、罪を押し付ける側にいた。夢を帳簿に落とす作業というより、誰かの朝を奪う儀式だった。私はその署名をした。あの家族のこと、息子のこと、忘れられない」

言葉の断片が砂浜にぽつりと落ちる。アマヤはユキの顔を見た。彼女の手は小刻みに震えている。波が寄せては引き、砂に小さな爪痕を残した。

「公にするつもりか?」サイが尋ねる。サイは元兵士で、軍の暴走を目の当たりにしてここに来た。彼の声は低く、常に先を読む。野戦の癖で、彼の視線は常に四方を探る。

ユキはうなずいた。「あの家族のように、私の名前が誰かの呪いの鎖に繋がるなら、私がそれを外す。私がしたことを私は証言する。それが、曖昧な裁きよりも正しいはずだ」

ミアが目を細めた。「晒すことで、報復が来る。あなたも、私たちも」

「わかってる」ユキは砂を掬った。冷たくて、握りしめると指の間にすぐにこぼれ落ちる。「でも、黙っていることで、もっと罪が増えるなら……」

アマヤは静かに立ち上がった。手のひらの血管が青く浮き、夜風に散る。彼の中で何かが常に渦を巻いている。能力の感触だ――人々の夢が示す残酷な真実を、一つに縫い合わせるときの硬い刺すような疼き。縫証(ぬいあかし)。それを彼は持っている。だが、使えば使うほど、彼の大切な記憶は薄れていく。救済を強制すればするほど呪いは増幅する。いつもそうだった。

「私がやるべきか」彼はつぶやいた。声は低く、砂に落ちる音と混じる。「ただし……条件を言う。今日は強制的な救済は行わない。証言は集める。真実を外へ出す手段を作る。ただし、私が能力を使うなら、その代償は受け入れる」

ユキの目に光が宿る。ミアが浅く息を吐いた。「代償を払う人を一人にするべき?」イトが問いを投げた。イトは記録の技術で公文書の偽装や解除方法を知っている。彼が言いたいのは、リスクを分散することだった。

レンは目を閉じた。記憶の欠落はすでに少しずつ忍び寄っている。カナエの笑い――風に乗るようなその音を、彼は数日前に確かに聞いた。だが今、その輪郭が曖昧になっていくのが分かる。舌先に残るはずの彼女の匂い、古い絵本の紙の感触、いくつかの夜の温度が、すり減っていく。能力を使った痕跡は、いつも彼の内側から何かを削った。

「一度だけなら」とサイが言った。「ただし証言は複数の目と耳を必要とする。官吏は一人の証言を無視するだろうが、三つ四つの噛み合った記憶は無視できない」

レンはうなずいた。空がわずかに朱を帯びる。海面がそれを受けて、銀の筋を伸ばす。彼はユキの前に跪いた。彼女の手のひらに自分の手を重ねると、皮膚の暖かさが伝わった。縫証は触れ合いから始まる。彼は呼吸を整え、集中した。指先から伝わる感覚が鋭くなり、世界のエッジが少しだけ歪む。

初めは小さかった。ユキが見た夜、手帳に残された名前、母親が子を抱きしめる夢が税として記録された夜景――彼女の夢の断片をレンは拾い上げ、糸でなぞるように重ねた。糸は冷たくて、目に見えない。縫い合わされた証言は、空気の中で微かな振動を作る。海風がそれをさらっていく。

だが、縫っていくうちに、レンの内側の何かが凍り始めた。最初に失われたのは、小さな手のひらの記憶だった。カナエが幼い頃、リンゴを齧った指の匂い。次に彼女の話し方のアクセントの一節が消え、代わりに遠くの寺院の鐘の音だけが残った。縫証の糸は事実を束ねたが、同時にレンの私的な時間を薄い膜のように剥がしていった。彼はそれを感じながら、止めることができなかった。誰かの真実が外に出るためには、自分の記憶の一部が土台として差し出されるのだ。

「……これでいいか?」レンの声は震えた。砂に落ちる言葉をユキが受け取る。イトは帳面を取り出し、震える手でメモを取る。ミアはユキの肩に手を置いた。周囲の空気が少し変わった。ユキの語ったことは、そこにある物質のように固まっていく。縫証は単なる内観ではない。人の夢が示した映像が複数の声に支えられて、現実の証拠となっていく。その仕事は、制度の外でしかできない「真実の実装」だった。

しかし、その瞬間、浜辺の空気が違った波長で震えた。遠方――町の方角から、警笛のような音が鳴った。人が起きる時間より早い、鋭い合図。誰かが動いた。陸の方から小さな灯りが走り、白い服をまとった集団のシルエットが砂浜に向かってくるのが見えた。夢税取締隊の明かりだ。

「早い」サイの口元が硬くなる。「どうして知っているんだ。俺たちの予定は夕刻だ」

イトが巻物をめくるように古い書類をひとつ取り出した。そこには見慣れた印章が真新しく押されていた。銀の封蝋に、教会の十字が少し歪んだ形で刻まれている。その横に、小さな文字で「縫証の試験的運用」とあった。レンの血が冷える。封蝋の下に染み込んだものは、彼らが意図せぬ形で世に知られる寸前だった。

「たぶん、誰かに告げ口された」とユキが言う。「私の告白の話が漏れたのかもしれない。あるいは――」

あるいは、縫証自体が何らかの信号を出したのかもしれない。レンの胸に冷たい石が落ちた。縫った証言は固まったが、それは同時に、既存の制度にとっては挑発だった。夢税の執行組織は、告発に対して即応する体制を整えている。彼らは告発者の声を恐れ、封じる準備をしているのだ。

「逃げる?」ミアが言う。彼女の手は膝にきつく押され、包帯の端が白い線となって見える。

「逃げるだけでは何も変わらない」ユキが吐き捨てるように言った。「署名も私の名前も、ただの紙切れになる。誰かが証拠を見て、人々が立ち上がる余地を作らねば」

レンはふっと目を閉じた。カナエの断片がまた薄くなる。彼は手を握りしめ、爪が掌に食い込む痛みで現実を保とうとした。選択を迫られるとき、記憶はいつも逃げる。

「ならば、やるべきだ」サイが短く返した。「だが計画的に。ミア、治療所に伝言を。イト、データのコピーを作れ。ユキ、お前は最前線に立つつもりか?」

ユキは小さくうなずいた。「私がやる。自分の名前で