夢葬高校のプロトコル 第9話「第八章 救出派と再構成派」
放課後の講堂は空気が薄く、盛り上がった声が消しゴムの屑のように無数の小さな焦点だけを残していた。職員室から出された公式文書は「一連の事案は現在精査中であり、安全の確保のための実習は継続される」とだけ書いてあった。綴環高校のロゴがついた紙は、そう書かれてあるだけで意味を持つべき言葉が消されているように見えた。
放課後の講堂は空気が薄く、盛り上がった声が消しゴムの屑のように無数の小さな焦点だけを残していた。職員室から出された公式文書は「一連の事案は現在精査中であり、安全の確保のための実習は継続される」とだけ書いてあった。綴環高校のロゴがついた紙は、そう書かれてあるだけで意味を持つべき言葉が消されているように見えた。
「事故として処理する、か」とナギが舌打ちをする。彼女は講堂の端で、いつものように膝を抱え、足元の携帯画面を指先で叩いていた。ミツルは隣に立ち尽くし、目を落としたまま端末のパラメータを確認している。彼の顔色は四日前と変わらず、睡眠をしていない人間のそれだった。シンは黒い制服の列を見下ろしながら、胸の奥に小さな固まりがあるのを感じた。言葉にしづらい。自分の過去が抜けている穴と、今日生まれつつある穴の重なりだった。
生徒会の前で、壇上に二つの旗が並んだ。片方には「救出」、もう一方には「再構成」と書かれたシールが貼られている。救出派の代表、桐生サトルは以前から冷静で、仲間を取り戻すことに情熱を燃やしていた。再構成派の代表、中田ミサは一見すると穏やかで、苦痛から解放される選択を説いて回っている。壇上の空気は割れ物のようにピンと張っていて、どちらが正しいかという声が放たれる前に、もう何かが折れそうだった。
「我々は被害者を現実へ戻すべきだ」桐生の声はよく通った。彼の目は真っ直ぐで、何度も泣いた跡が瞳の下にあるのが見えた。「眠り続けることが選択だと言うなら、選ばせるべきだ。でも今は、選べる状態にない人がいるんだ。ユラは学校にいない。僕らは取り戻す方法を見つける。」
「苦痛の記憶が、その人を駄目にしているのなら、それを取り除くのは慈悲だ」中田は微笑んだ。口調は柔らかいが、周囲の空気を拡げる力があった。「夢境実習は本来、人を楽にするためのもの。痛みを消して、『幸福』へ導く。誰も犠牲にならなくていい。」
両者の言葉に拍手が起きる。だがその拍手は別々の方向へ向けられていた。シンはその輪の中を抜け出して、二人の代表に近づいた。どちらにも同期役として入る許可をもらうためだ。七分の制限がある。複数の夢を順番に並べるには時間が足りない。だから、代表たちの夢から情報を得て、鷺沼の介入の形を掴むことが必要だった。
ミツルの端末が小さく震え、虚像の軸線を描いて見せる。彼はゆっくりと首を上げ、シンの目を見た。「二つ、同時に行ける。リアルタイムで地図を重ねる。だが、おまえの脳波は三つ目を保持しない。ナギ、頼むぞ。」
ナギは頷いて、ざっくりと髪を掻き上げた。「分かった。私が重さを担当する。感情の落ち方で、嘘と本当を見つける。」
まずは救出派代表の夢から入ることにした。桐生は素直に許可を出し、ベッドに横になる。同期役はナギが務める。ミツルは端末で外から地図を描き、シンはイヤホンで同期波を合わせる。七分の残量を示す月の端が欠ける。いつもの習慣でシンは胸の奥にある冷たさを確かめた。幼い頃からあった空白は今日もそこにあるが、他人の痛みを見ればおのずと輪郭が浮かぶ感覚は、以前より容易かった。
夢は駅のホームだった。プラットフォームの端に並んだ人影が、写真を持っている。写真は動いて、瞬きする。桐生は写真を抱きしめていた。近づくと、写真の中の笑顔は欠けている箇所があり、そこだけが不自然な白さで透けていた。ナギが軽く床に触れると、そこに沈んだ重さが流れ込んだ。床が答える――「忘れたくない」と。
桐生の夢は噛みしめるような苦さだった。彼は夢の中で必死に記録を取り、欠落に対して抗議している。写真の欠けは誰かに引き裂かれたように見える。ナギはその欠けに手を伸ばし、重さを注ぎ込んだ。すると白い部分が泥のように沈み、写真全体が現実の紙の手触りを取り戻す。桐生はほっと息を吐く。だが彼の言葉は必死だった。「戻してほしい。ユラにも、他の子にも、戻してほしいんだ。」
時間が三分を過ぎる頃、ミツルの地図に小さな歪みが現れた。北が少し傾いている。彼は眉を寄せる。「校庭の重心が外れている。誰かの意図的な固定――鷺沼の構造の忘却がここに流れ込んでいる。」
次に、再構成派代表の中田の夢へと入る。中田は薄い羽毛布団の中で穏やかな表情をしており、夢の中の空は柔らかな光で満ちていた。そこには鷺沼レイがいた。鷺沼は清潔な白衣を着て、穏やかに笑っている。白い校庭ではない。もっと家庭的で、悪意のない保存箱のような空間に、鷺沼は座り、手元のタブレットに誰かの過去をスクロールさせて見せていた。
「見てごらん」鷺沼の声は静かだった。「ここには苦しみだけが残っている。君がそれを消すことができるのなら、君は救済者だ。消去することは忘却ではない。選択肢の提供だよ。」
画面には、不思議なシミュレーションが流れていた。中田が目を細めると、画面の中の自分が笑っている。笑顔の周りには風船のように白い泡が浮かび、泡の中には記憶の欠片が透明に漂って消えていく。泡が弾けると、その場所には誰かの名前が浮かんでいるだけで、顔は描かれていない。全体が救いの映像としてデザインされていた――痛みが消え、安堵だけが残る未来。
シンは胸の中で矛盾が膨らむのを感じた。あの映像は確かに魅力的だった。自分がもしすべてを忘れたら楽なのか、と一瞬思ってしまう。幼い頃の空白は、痛みを記憶することで人が壊れた姿を免れているのか、それとも壊れてしまったから忘却が正しいのか。ナギがそっとシンの腕に手を置いた。彼女の手の冷たさが、思考の輪郭を引き締める。
「これって、洗脳じゃないのか?」シンが言うと、鷺沼の影は柔らかく崩れた。
「洗脳という言葉は感情の武具に過ぎない」鷺沼は穏やかに首を振った。「我々は身体的苦痛を軽減し、機能を取り戻す。選べるならば、選ぶ権利を与える。拒否する人はそのままでいい。だが、苦しみを抱える人が自らを変えることを望むなら、その手伝いをするのが医術だろう?」
中田の夢は、説得力のある親切な悪意に満ちていた。だがナギが床のタイルに手を当てると、そこに埋められた重さがざわりと動いた。タイルの裏からは、誰かの叫びや眠れない夜が漏れる。中田の顔が一瞬曇り、画面の笑顔がひび割れた。
「彼らは幸福になるわけじゃない」ナギが低く言った。「重さが消えると、落ちる場所を忘れる。元の形に戻れないの。何かを消すことは、別の何かを奪うことだ。」
シンはナギの言葉を反芻する。自分の欠落もまた、確かに何かを持っている。痛みも、名前も、記憶も、全てが彼を形作っているという当たり前の事実が、ここで突き付けられる。だが中田の目には、救済の希望が残っていた。彼女は説得されていたわけではない。消去を望む者を救いたいという誠実な意思がそこにある。
七分の月が半分を切る。シンは決断のスイッチを押せるほどの確かさを持てなかった。断夢は使える。だが過去にそれを使ったとき、幼い自分が払った代償を思い出す。ユラの人格を固定するために他の生徒から記憶が燃やされていたという事実を抑えるべきで、同時にユラ自身の今の選択を消す権利は誰にも与えられてはいけない。
「僕たちがするべきことは、答えを与えることじゃない」シンはナギに向かっ