ナイター照明が消えない球場 第14話「エピローグ:朝焼けのグラウンド」
数ヶ月後。 雁首市民球場の跡地には、広大な芝生の公園が完成した。 その一角には、小さな、けれど本格的な少年野球場が併設されている。
数ヶ月後。
雁首市民球場の跡地には、広大な芝生の公園が完成した。
その一角には、小さな、けれど本格的な少年野球場が併設されている。
週末になると、子供たちの元気な声が響き渡る。
公園のベンチ――律が作ったあの長椅子には、いつも誰かが座り、楽しそうに試合を眺めている。
紬は休日の穏やかな午後、その公園を訪れた。
律が作ったベンチの端に腰を下ろし、持参した水筒のコーヒーをゆっくりと味わう。隣の芝生では、家族連れがシートを広げ、笑い声が風に乗って流れてくる。
ふと、隣の空いたスペースに、誰かがふわりと座ったような微かな気配がした。ベンチが僅かに沈んだような気がして、彼女は横を向いた。
そこには、やはり誰もいない。
けれど、秋の澄んだ風に乗って、微かに、けれど確かなロジンバッグの粉の香りが鼻をくすぐった。そして、遠くの少年野球場から、カキィィンという、バットがボールを完璧に捉える快音が響いてきた。
「……ナイスバッティング、兄さん」
紬は誰にも聞こえないほどの小さな声で呟き、優しく微笑んだ。
夕闇が迫ると、公園の空に新しく設置されたスマートなデザインのナイター照明が点灯した。
それは夜になると、未来のプロ野球選手を夢見るスターたちの練習を照らすために、規則正しく点灯する。
もう、朝まで消えないなんてことはない。
けれど、その光はかつてのあの白い光と同じくらい、あるいはそれ以上に温かく、街の未来を照らす希望に満ちている。
浅倉紬は立ち上がり、バッグを肩にかけ直して、ゆっくりと歩き出した。
彼女の足取りは驚くほど軽く、その瞳は真っ直ぐに、まだ見ぬ明日をしっかりと見つめていた。
試合は、いつだってここから始まるのだ。たとえ一度は雨で中断したとしても、必ず「続き」はある。そのことを、彼女はこの場所で教わったのだから。
(完)