廃校体育館のロボット合唱団 第8話「第7章:隠蔽された歴史」
午前四時。東の空がわずかに白み始めた。 蓮は屋上のアンテナとステージの機材を無線で繋ぎ、最終的なチューニングを終えた。 「準備完了だ。陽菜、お前が指揮を執れ」 「私が? でも、私は指揮なんて……」 「ユニット13が言ってたろ。『マスター・クロック』が必要だって。ロボットたちは、誰かが彼らの前に立って、その鼓動を伝えないと本当の力が出せない設計なんだ。あの子たちの目を見てやってくれ」 陽菜はステージの中央に立った。 十二体のロボットが、一斉に彼女の方を向いた。その真空管の光は、今はもう冷たい機械の光ではなく、誰かの温かな眼差しのように感じられた。 陽菜は大きく息を吸い、腕を上げた。 その瞬間、体
午前四時。東の空がわずかに白み始めた。
蓮は屋上のアンテナとステージの機材を無線で繋ぎ、最終的なチューニングを終えた。
「準備完了だ。陽菜、お前が指揮を執れ」
「私が? でも、私は指揮なんて……」
「ユニット13が言ってたろ。『マスター・クロック』が必要だって。ロボットたちは、誰かが彼らの前に立って、その鼓動を伝えないと本当の力が出せない設計なんだ。あの子たちの目を見てやってくれ」
陽菜はステージの中央に立った。
十二体のロボットが、一斉に彼女の方を向いた。その真空管の光は、今はもう冷たい機械の光ではなく、誰かの温かな眼差しのように感じられた。
陽菜は大きく息を吸い、腕を上げた。
その瞬間、体育館の空気が一変した。
『――常盤の森に、風が吹く――』
ソプラノが、アルトが、テナーが、バスが。
三十年の沈黙を破り、完璧なハーモニーが溢れ出した。
それは単なる音の重なりではなかった。ダムの底に沈んだ村の木々のざわめき、銀色に光る川の流れ、校庭で遊ぶ子どもたちの笑い声。それら全ての記憶が、音の粒となって空間を埋め尽くしていく。
防災無線のスピーカーを通じて、その歌声は眠りについた琴ノ浦の町へと流れ出した。
家々の窓に明かりが灯り始める。
新聞配達のバイクが止まる。
早起きをした老人が、耳を疑うように空を見上げる。
その歌声は、かつて常盤で暮らしていた人々の心に、鋭い痛みと共に、強烈な懐かしさを呼び起こした。
一方、町役場の宿直室では、加藤が狂ったように電話をかけ続けていた。
「何をしてるんだ! 早く放送を止めろ! 誰だ、勝手に機材を動かしているのは!」
彼は慌てて車に飛び乗り、旧第三中学校へと向かった。