廃校体育館のロボット合唱団

廃校体育館のロボット合唱団 第2話「第1章:放課後の幽霊合唱団」

翌日も雨だった。陽菜は昨日の出来事が夢ではなかったことを確かめるため、クラスメイトの九条蓮(くじょう・れん)を体育館に誘った。 蓮は陽菜と同じく、この町で生まれ育った少年だ。実家が小さな鉄工所を営んでいるせいか、彼は幼い頃から機械の構造に異常なほど詳しかった。いつも油の匂いがする作業着のような上着を羽織り、冷めた目で世界を見ている。 「……こいつか」 蓮は倉庫の奥に並ぶ十二体のロボットを見つめ、感心したように呟いた。 「コール・ユニット12。通称『木製の歌姫』。三十年以上前に生産が止まったはずの骨董品だ。なんでこんなところに生き残ってるんだ?」 「昨日、急に歌い出したの。本当に怖かったんだから

翌日も雨だった。陽菜は昨日の出来事が夢ではなかったことを確かめるため、クラスメイトの九条蓮(くじょう・れん)を体育館に誘った。
 蓮は陽菜と同じく、この町で生まれ育った少年だ。実家が小さな鉄工所を営んでいるせいか、彼は幼い頃から機械の構造に異常なほど詳しかった。いつも油の匂いがする作業着のような上着を羽織り、冷めた目で世界を見ている。
「……こいつか」
 蓮は倉庫の奥に並ぶ十二体のロボットを見つめ、感心したように呟いた。
「コール・ユニット12。通称『木製の歌姫』。三十年以上前に生産が止まったはずの骨董品だ。なんでこんなところに生き残ってるんだ?」
「昨日、急に歌い出したの。本当に怖かったんだから」
「歌った? こいつらは外部の入力がないと音を出さないはずだぞ。楽譜を読み込ませるか、誰かが指揮をしない限りは」
 蓮は手慣れた様子で、一体のロボットの背面のパネルを開けた。内部には複雑な歯車と、無数の真空管が整然と並んでいる。彼はポケットから取り出したペンライトで中を照らし、眉をひそめた。
「おかしいな。電源コードも繋がってないし、バッテリーもとっくに上がってるはずだ。なのに、この真空管……微かに熱を持ってる」
 蓮が指先で基盤の一部に触れた瞬間だった。
 倉庫全体の空気が震えた。
 一体、また一体と、ロボットたちの頭部が持ち上がる。カチカチという歯車の噛み合う音がリズムを刻み、十二体のスピーカーが同時に共鳴を始めた。
「ン、ンンー……」
 それは言葉にならないハミングだった。しかし、単なるノイズではない。十二のパートが複雑に絡み合い、体育館の広い空間を一つの巨大な楽器に変えていく。
「すごい……」
 陽菜は息を呑んだ。音の波が肌を撫で、心臓の鼓動を上書きしていくような感覚。それは、統合校の音楽室にある最新のデジタルピアノでは決して出せない、重層的で、どこか人間味のある響きだった。
「待て、陽菜。これを聞け」
 蓮が真剣な表情で耳を澄ませる。
 ハミングの中に、微かな「言葉」が混じり始めていた。
『……わ……の……もり……ぎんの……かわ……』
 途切れ途切れの歌詞。それは陽菜が知っているどの合唱曲とも、およびこの中学校の校歌とも違っていた。
「聞いたことがない歌。でも、なんだか懐かしい気がする」
 陽菜が呟くと、一番小柄なロボットが、彼女の方へゆっくりと首を向けた。まるで、彼女の言葉を理解したかのように。
 その時、体育館の入り口の扉が乱暴に開いた。
「誰だ、そこにいるのは!」
 鋭い声が響き、ロボットたちの光が瞬時に消えた。音も止まり、ただの古い木箱に戻る。
 立っていたのは、町役場の職員と、陽菜たちの統合校で音楽を教えている佐伯(さえき)だった。