廃校体育館のロボット合唱団

廃校体育館のロボット合唱団 第11話「第10章:共鳴する町」

その日を境に、琴ノ浦町は大きく変わり始めた。 体育館の解体中止を求める署名は、わずか三日間で町民の過半数を超えた。佐伯先生をはじめとする元教員たちや、常盤の卒業生たちが中心となり、「常盤の記憶を守る会」が発足した。 陽菜と蓮は、一躍「町のヒーロー」として扱われるようになったが、二人にその自覚はあまりなかった。 「ねえ、蓮。ロボットたちはどうなるのかな?」 放課後、陽菜は蓮の工場の作業場で尋ねた。蓮はユニット13のひしゃげた真鍮パーツを丁寧に叩いて直していた。 「町が予算を出して、正式に修復することになったよ。今度は隠し部屋じゃなくて、体育館のステージに常設されるらしい。名前も『コール・ユニット

その日を境に、琴ノ浦町は大きく変わり始めた。
 体育館の解体中止を求める署名は、わずか三日間で町民の過半数を超えた。佐伯先生をはじめとする元教員たちや、常盤の卒業生たちが中心となり、「常盤の記憶を守る会」が発足した。
 陽菜と蓮は、一躍「町のヒーロー」として扱われるようになったが、二人にその自覚はあまりなかった。
「ねえ、蓮。ロボットたちはどうなるのかな?」
 放課後、陽菜は蓮の工場の作業場で尋ねた。蓮はユニット13のひしゃげた真鍮パーツを丁寧に叩いて直していた。
「町が予算を出して、正式に修復することになったよ。今度は隠し部屋じゃなくて、体育館のステージに常設されるらしい。名前も『コール・ユニット』じゃなくて、新しい名前を公募するんだとさ」
「新しい名前か……いいわね」
「それだけじゃないぜ。あの体育館、ただの保存施設にするんじゃなくて、陽菜たちが言ってた通り『新しい学びの場』として活用する案が出てる。放課後の自習だけじゃなくて、大人が特技を教えたり、子どもたちが自分たちでプロジェクトを立ち上げたりする、自由な学校みたいな場所にしたいって、佐伯先生が張り切ってるよ」
 陽菜は窓の外を見上げた。雨続きだった六月が終わり、空には突き抜けるような青が広がっている。
 統合校での生活は、相変わらず忙しくて少し息苦しい。でも、今の陽菜には、帰る場所がある。大人が決めた「学校」という枠組みの外側に、自分たちで選んだ居場所がある。
 数週間後、体育館で「再出発の集い」が開かれることになった。
 陽菜は、その集いの最後で、もう一度ロボットたちと一緒に歌ってほしいと頼まれた。
「今度は、隠れて歌うんじゃないのね」
 陽菜は少し緊張しながら、ステージの袖で出番を待っていた。
 隣には、すっかり綺麗になった十二体のロボットと、胴体を取り戻したユニット13が並んでいる。蓮の父親が、工場の総力を挙げて予備パーツから胴体を組み上げてくれたのだ。真鍮のパーツは磨き上げられ、木製の筐体には蜜蝋ワックスが塗られ、鈍い光沢を放っている。
「浅見さん、準備はいいかい」
 佐伯先生が声をかけてきた。彼は今日、ピアノの伴奏を務めることになっていた。かつての教え子たちの声を保存した機械と、現在の教え子である陽菜。その二つを結ぶ伴奏者として、彼は正装に身を包んでいた。
「はい。先生、あの……一つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「常盤分校の子どもたちは、最後、どんな顔をしてこの歌を歌っていたんですか? 悲しかったのかな、それとも……」
 佐伯は少し考えてから、遠くを見るような目で、優しく微笑んだ。
「悲しくなかったと言えば嘘になるだろうね。自分たちの故郷がなくなるんだから。でもね、あの子たちの目は輝いていたよ。絶望していたんじゃない。自分たちがここにいたという証を、この子たち――ロボットたちに託すことで、未来の誰かと繋がれると信じていたんだ。たとえ地図から名前が消えても、誰かがこの歌を聴いてくれれば、常盤は死なない。今の君のようにね」
 陽菜は深く頷いた。
 自分は、三十年前の子どもたちからバトンを受け取ったのだ。それは重く、温かく、そして誇らしい重みだった。今度は、自分がこのバトンを次の誰かへ繋いでいく番だ。