廃校体育館のロボット合唱団 第12話「第11章:廃校体育館の合唱祭」
「それでは、浅見陽菜さんと合唱ロボットたちによる演奏です」 司会の紹介と共に、陽菜はステージの中央へ歩み出た。 客席には、加藤の姿もあった。彼は役場を辞めることになったそうだが、今日は一人の町民として、一番後ろの席で静かに座っていた。その表情は憑き物が落ちたように穏やかで、膝の上でリズムを取るように指を動かしていた。 陽菜は客席を見渡し、ゆっくりと腕を上げた。 ユニット13がカチリと音を立て、指揮を開始する。首の関節が滑らかに動き、陽菜の動きを追尾する。 十二体のロボットたちが、一斉に深呼吸をするような吸気音を立てた。それは古い蛇腹が空気を吸い込む音だったが、陽菜にはそれが命の鼓動のように聞こ
「それでは、浅見陽菜さんと合唱ロボットたちによる演奏です」
司会の紹介と共に、陽菜はステージの中央へ歩み出た。
客席には、加藤の姿もあった。彼は役場を辞めることになったそうだが、今日は一人の町民として、一番後ろの席で静かに座っていた。その表情は憑き物が落ちたように穏やかで、膝の上でリズムを取るように指を動かしていた。
陽菜は客席を見渡し、ゆっくりと腕を上げた。
ユニット13がカチリと音を立て、指揮を開始する。首の関節が滑らかに動き、陽菜の動きを追尾する。
十二体のロボットたちが、一斉に深呼吸をするような吸気音を立てた。それは古い蛇腹が空気を吸い込む音だったが、陽菜にはそれが命の鼓動のように聞こえた。
今度の歌は、あの雨の夜の物悲しい調べとは違っていた。
佐伯先生の奏でるピアノの旋律に乗せて、ロボットたちの歌声は、まるで初夏の光が弾けるような、明るく力強い響きとなって放たれた。
『――光の粒が、風に乗る。新しいページを、めくる音がする。銀の川面を、跳ねる魚のように、私たちの声は、未来へ跳ねる――』
陽菜は歌いながら、自分自身の声を重ねた。
かつての常盤の子どもたちの声と、今の自分の声が混じり合い、体育館の空気を震わせる。ソプラノの機体が陽菜の声に寄り添い、バスの機体が彼女の足を支えるように響く。
途中から、客席の人々も立ち上がり、一緒に歌い始めた。
歌詞を知っている人も、知らない人も、メロディに合わせて体を揺らし、口ずさむ。隣の人と肩を組み、涙を拭いながら笑顔で歌う人々。
それは、もはや「過去の記憶」を惜しむための歌ではなかった。
今、この場所で共に生きていることを喜び、自分たちの未来を自分たちで描いていくための、「新しい校歌」だった。大人が決めた「終わり」を、自分たちの「始まり」へと書き換えるための儀式だった。
歌声は体育館の壁を突き抜け、琴ノ浦の山々に響き渡り、ダムの湖面を揺らした。
水底に沈んだ村の跡にも、かつての分校の校庭にも、きっとこの歌は届いているはずだ。
演奏が終わると、割れんばかりの拍手が巻き起こった。それは体育館が揺れるほどの熱量だった。
陽菜は深々と頭を下げた。顔を上げると、最前列で蓮が照れくさそうに、でも力強く両手で親指を立てていた。
ロボットたちの真空管は、かつてないほど明るく、黄金色の光を放っていた。その光は、体育館の埃の一つ一つを黄金の砂粒に変え、幻想的な光景を作り出していた。陽菜は、その光の中に、かつての分校の子どもたちが一緒に笑いながら拍手をしている幻を見たような気がした。それは決して悲しい幻ではなく、祝福の光だった。