明日を冷凍するスーパーマーケット 第9話「第八章:常連客のラベル」
営業再開の日。店内は新しく塗り直された棚と、最新の照明で輝いていた。だが、空気の重さは以前とは比べものにならない。 冬馬は慣れた手つきで品出しをこなしていた。紗季もレジに立っているが、その表情には緊張が張り付いている。 午前三時。 冬馬は深呼吸をし、冷凍庫の扉に手をかけた。 ハンドルは冷たく、拒絶するように重い。 中に入ると、以前よりもさらに鋭い冷気が冬馬を包んだ。まるで冷凍庫そのものが意志を持ち、冬馬を威圧しているかのようだ。 棚の最奥。 そこには、一個の「あんぱん」が置かれていた。 何の変哲もない、この店で一番売れている安価なあんぱんだ。 だが、そのラベルを見た瞬間、冬馬の心臓は止まりかけ
営業再開の日。店内は新しく塗り直された棚と、最新の照明で輝いていた。だが、空気の重さは以前とは比べものにならない。
冬馬は慣れた手つきで品出しをこなしていた。紗季もレジに立っているが、その表情には緊張が張り付いている。
午前三時。
冬馬は深呼吸をし、冷凍庫の扉に手をかけた。
ハンドルは冷たく、拒絶するように重い。
中に入ると、以前よりもさらに鋭い冷気が冬馬を包んだ。まるで冷凍庫そのものが意志を持ち、冬馬を威圧しているかのようだ。
棚の最奥。
そこには、一個の「あんぱん」が置かれていた。
何の変哲もない、この店で一番売れている安価なあんぱんだ。
だが、そのラベルを見た瞬間、冬馬の心臓は止まりかけた。
『明日:午前二時十五分 期限切れの牛乳(烏森町二丁目 花村ハナ)』
花村ハナ。
その名前に、冬馬は見覚えがあった。いや、見覚えどころではない。
彼女は、この店が開店した当初からの常連客だ。毎晩、深夜二時を過ぎると、ゆっくりとした足取りで店にやってくる。そして、必ずこのあんぱんを一つだけ買い、冬馬に「いつもご苦労様ね」と優しく声をかけてくれる。
一人暮らしの老人で、身寄りはいないと聞いたことがある。
ラベルの「期限切れの牛乳」という言葉が意味するのは、食中毒ではない。
それは、彼女の時間が「期限切れ」になること。
つまり、死の予言だった。
冬馬は冷凍庫の中で膝をついた。
よりによって、彼女なのか。
いつも自分を気遣ってくれた、あの穏やかなお婆さんが、明日の夜に死ぬ。
冬馬はラベルを何度も読み返した。場所は彼女の自宅。時間は午前二時十五分。
介入すれば、彼女は助かるかもしれない。だが、その代償は?
前回の火災の予言で、店は半壊した。今回は「命」そのもののやり取りだ。もし彼女を救えば、今度こそ店は消滅し、冬馬自身も消えてしまうだろう。
あるいは、紗季がその身代わりになるかもしれない。
冬馬はあんぱんを手に取った。冷たく凍りついたパンは、まるで死者の体温のように無機質だった。