明日を冷凍するスーパーマーケット 第3話「第二章:等価交換の兆し」
「冬馬くん、最近なんか変だよ?」 休憩室でカップ麺を啜っていた紗季が、ジロリと冬馬を睨んだ。 「……そうかな」 「そうだよ。冷凍庫に入る回数、明らかに増えてるし。入るたびに、幽霊でも見たみたいな顔して出てくるし」 紗季の直感は鋭い。冬馬は誤魔化すようにコーヒーを飲んだが、彼女の視線は外れなかった。 「隠し事はナシだよ。私たち、夜の戦友でしょ?」 戦友。その言葉に、冬馬の心は少しだけ揺れた。一人で抱え込むには、あの冷凍庫の秘密はあまりに重すぎた。 「……紗季ちゃん。信じられないかもしれないけど、聞いてくれるか」 冬馬は、これまでに起きた二つの出来事を話した。雨の日の転倒と、割れた卵。そして、冷凍
「冬馬くん、最近なんか変だよ?」
休憩室でカップ麺を啜っていた紗季が、ジロリと冬馬を睨んだ。
「……そうかな」
「そうだよ。冷凍庫に入る回数、明らかに増えてるし。入るたびに、幽霊でも見たみたいな顔して出てくるし」
紗季の直感は鋭い。冬馬は誤魔化すようにコーヒーを飲んだが、彼女の視線は外れなかった。
「隠し事はナシだよ。私たち、夜の戦友でしょ?」
戦友。その言葉に、冬馬の心は少しだけ揺れた。一人で抱え込むには、あの冷凍庫の秘密はあまりに重すぎた。
「……紗季ちゃん。信じられないかもしれないけど、聞いてくれるか」
冬馬は、これまでに起きた二つの出来事を話した。雨の日の転倒と、割れた卵。そして、冷凍庫の奥に現れる「予言の商品」について。
話し終えると、紗季は箸を止めて絶句していた。冬馬は「やっぱり信じられないよな」と自嘲気味に笑ったが、彼女の反応は予想外のものだった。
「すごいじゃん! それ、超能力だよ! 予言者だよ!」
「しっ、声が大きい」
「だって、未来がわかるんでしょ? 悪いことを全部防げるじゃん。万引きとか、強盗とか、事故とかさ。私たちでこの街を守れるよ!」
紗季の瞳はキラキラと輝いていた。若さゆえの万能感。冬馬も一瞬、その光に絆されそうになった。
「でも、そんなに都合のいい話があるのかな」
「やってみなきゃわかんないって。ほら、今日の予言は何だったの?」
冬馬は渋々、さっき確認したばかりの情報を伝えた。
「『明日:午前四時 塩漬けの肉(バックヤード入り口)』。万引き……というか、窃盗の予言だと思う」
「よし、捕まえよう!」
午前三時五十分。
二人はバックヤードの入り口が見える物陰に潜んでいた。紗季は防犯カメラのモニターを食い入るように見つめている。
四時ちょうど。
店の裏口から、合鍵を持った人物が忍び込んできた。以前ここで働いていた元従業員の男だった。男は手慣れた様子で、レジの売上金が入った金庫に向かおうとする。
「そこまでだ!」
紗季が飛び出した。冬馬も慌てて後に続く。男は驚愕し、何も盗ることなく逃げ去っていった。深追いせず、二人は顔を見合わせてハイタッチをした。
「やったね! 未来を変えたよ!」
紗季の歓喜の声が店内に響く。冬馬も、胸のつかえが取れたような気がした。自分たちの力で、誰かの不幸を防いだのだ。
だが、その喜びは長くは続かなかった。
「……おい、如月。これはどういうことだ」
奥から、店長の九条が青ざめた顔で歩いてきた。彼は手にした懐中電灯で、青果コーナーを照らしていた。
冬馬と紗季が駆け寄ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
さっきまで瑞々しく並んでいたはずのレタス、キャベツ、ほうれん草。それらすべてが、まるで数週間放置されたかのように黒ずみ、ドロドロに溶けていたのだ。
異様な腐敗臭が鼻をつく。
「全部だ……。棚にある野菜、一つ残らず死んでる」
店長の声は震えていた。
冬馬は凍りついた。窃盗を防いだ直後に起きた、不自然な大量腐敗。
頭の中に、冷酷な方程式が浮かび上がる。
未来を救った代償として、この店の一部が死んだのだ。
救われた未来と、失われた現実。
あの冷凍庫は、ただ未来を見せているのではない。この街の「幸」と「不幸」の総量を調整するための、残酷な天秤だったのだ。
「あまり奥まで見るなと言ったはずだがな、如月」
店長が、暗い瞳で冬馬を見つめた。その言葉には、隠しきれない諦念が滲んでいた。