明日を冷凍するスーパーマーケット

明日を冷凍するスーパーマーケット 第11話「第十章:午前二時の接客」

運命の夜がやってきた。 冬馬はレジのカウンター越しに、自動ドアの向こう側の闇を凝視していた。時計の針は午前二時を回ったところだ。 紗季は隣で、商品の棚卸しをしながら何度も冬馬の方を伺っている。彼女もまた、言葉にできない緊張の中にいた。 二時十分。 電子音が鳴り、自動ドアが開いた。 冷たい夜気と共に、小さく腰の曲がった老婦人が入ってきた。花村ハナさんだ。彼女はいつものように、使い古した手提げ袋を腕に下げ、ゆっくりとした足取りで店内を進んでくる。 冬馬の心臓が激しく脈打つ。喉の奥がカラカラに渇き、声が出そうにない。 花村さんは真っ直ぐにあんぱんの棚へ向かい、一つだけ手に取った。そして、レジへと歩い

運命の夜がやってきた。
 冬馬はレジのカウンター越しに、自動ドアの向こう側の闇を凝視していた。時計の針は午前二時を回ったところだ。
 紗季は隣で、商品の棚卸しをしながら何度も冬馬の方を伺っている。彼女もまた、言葉にできない緊張の中にいた。
 二時十分。
 電子音が鳴り、自動ドアが開いた。
 冷たい夜気と共に、小さく腰の曲がった老婦人が入ってきた。花村ハナさんだ。彼女はいつものように、使い古した手提げ袋を腕に下げ、ゆっくりとした足取りで店内を進んでくる。
 冬馬の心臓が激しく脈打つ。喉の奥がカラカラに渇き、声が出そうにない。
 花村さんは真っ直ぐにあんぱんの棚へ向かい、一つだけ手に取った。そして、レジへと歩いてくる。
「こんばんは、冬馬さん。今夜も冷えますね」
 彼女の穏やかな声が、冬馬の耳に届く。その笑顔は、明日死ぬ運命にある人とは到底思えないほど、生気に満ちていた。
「……こんばんは、花村さん」
 冬馬は震える手でバーコードをスキャンした。百二十円。いつもの価格だ。
 彼女が小銭入れから百円玉と十円玉を取り出す。その動作の一つ一つが、ひどく愛おしく、同時に悲しく見えた。
 袋詰めを終え、商品を渡す時、冬馬は意を決して彼女の手を軽く握った。
「……花村さん。少しだけ、お話してもいいですか」
 花村さんは驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「ええ、いいですよ。私のような老人の話でよければ」
 冬馬はレジを紗季に任せ、花村さんを店内の休憩スペースへと誘った。自動販売機の横にある、小さなテーブルと椅子。そこが、今夜の審判の場となった。