透明な島の給食当番 第9話「第7章:ガラスの沈黙」
翌朝、島はかつてないほどの輝きを放っていた。透明度は増し、まるで島全体が消えてしまいそうなほどだった。
翌朝、島はかつてないほどの輝きを放っていた。透明度は増し、まるで島全体が消えてしまいそうなほどだった。
ハルは、死人のような顔をして登校してきた。美央たちは彼を取り囲み、不自然なほど明るく接した。ハルはそれに愛想笑いで応えていたが、その瞳には何の光も宿っていなかった。
「さあ、今日の給食は特別だよ! みんな、席について!」
美央が仕切る中、給食の時間が始まった。僕は震える手で、最後のご飯を盛り付けていた。今日の献立は、ハルが一番好きだと言っていたカレーライスだ。
僕はハルの器にカレーを注いだ。そして、息を呑んだ。
器の底から、文字が湧き上がってくる。それも、一つや二つではない。無数の文字が、カレーの海を埋め尽くしていく。
『たすけて』『はずかしい』『いきたくない』『ごめんなさい』『さよなら』
それは、ハルの心から溢れ出した悲鳴だった。文字は器から溢れ出し、ハルの手元まで浸食していくように見えた。だが、それを目にしているのは、やはり僕だけだった。
「ハル君、これ、みんなからの気持ちだよ」
美央が、クラス全員で集めた募金箱をハルの前に置いた。クラスメイトたちが一斉にハルを見つめる。期待に満ちた、残酷な善意の眼差し。
「ハル君、もう嘘なんてつかなくていいんだよ。お家のこと、みんな知ってるから。私たちは味方だよ」
美央の言葉が、最後の一撃となった。
ハルの顔が、屈辱で真っ赤に染まった。彼は募金箱を払い除け、立ち上がった。
「……勝手なこと、言うなよ!」
彼の叫びは、透明な校舎に反響し、何度も繰り返された。
「僕のことなんて何も知らないくせに! 助けてなんて頼んでない! 僕がどんな気持ちで嘘をついてたか、お前らには一生わからないんだ!」
ハルはカレーの器を床に叩きつけた。透明な床に、茶色のカレーと白いご飯が飛び散る。そして、僕の目には、その飛沫の中に無数の『さよなら』という文字が踊っているのが見えた。
ハルは教室を飛び出していった。美央は呆然と立ち尽くし、クラスメイトたちは顔を見合わせた。
「……なんで? 私たち、助けようとしただけなのに」
美央の呟きに、僕は答えなかった。僕はただ、床に散らばったハルの悲鳴を、透明な雑巾で拭き取るしかなかった。