透明な島の給食当番

透明な島の給食当番 第8話「第6章:善意の暴走」

しかし、事態は僕の予想を超えて悪化していた。

しかし、事態は僕の予想を超えて悪化していた。

教室に戻ると、美央が黒板に大きく『ハル君お別れ募金』と書いていた。クラスメイトたちは、小銭を出し合いながら「可哀想だよね」「都会の生活って大変なんだ」と口々に言っていた。そこにあるのは、純粋な善意と、それ以上に残酷な「同情」だった。

「みんな、聞いて! 明日の最後の給食の時間に、ハル君にこのお金を渡しましょう。そして、みんなで『隠さなくていいんだよ』って伝えてあげるの!」

美央の宣言に、クラス中が拍手で応えた。僕はその光景に吐き気がした。ハルが明日、どんな顔をして登校してくるか。彼が大切に守ってきた自尊心が、この「善意のパレード」によってどれほど無残に踏みにじられるか。

「やめろよ!」

僕は叫んでいた。教室が静まり返る。美央が驚いた顔で僕を見た。

「凪? どうしたの急に」

「美央、お前がやってることは助けじゃない。ハルを追い詰めてるだけだ! ハルは、お金が欲しいわけじゃない。ただ、普通に僕たちと笑って過ごしたかっただけなんだよ!」

「そんなの、凪の勝手な想像でしょ! 実際にお金に困ってるんだから、助けるのが当たり前じゃない!」

美央と僕は、激しく言い争った。クラスメイトたちは戸惑い、僕を「冷たい奴」を見るような目で見つめた。結局、僕の言葉は誰の耳にも届かなかった。

その日の放課後、僕はハルの家へと走った。島の外れにある、古びた借家。透明な空気の中で、その家だけがひどく薄汚れて見えた。玄関先には段ボール箱が積み上げられ、確かに引っ越しの準備が進んでいるようだった。

「ハル! いるんだろ!」

僕はドアを叩いた。返事はない。だが、奥の部屋で誰かが動く気配がした。

「ハル、明日の給食、絶対に来てくれ。僕が……僕がなんとかするから。美央たちのやってることは間違ってるけど、でも、お前とちゃんとお別れしたいんだ!」

僕は必死に訴え続けた。ドアの向こうで、ハルが震える声で答えた。

「……もう、どうでもいいよ。この島も、学校も、みんなも。全部透けて見えて、気持ち悪いんだ」

その言葉に、僕は言葉を失った。島が透明になることは、ハルにとっては救いではなく、プライバシーを奪う暴力でしかなかったのだ。