透明な島の給食当番

透明な島の給食当番 第7話「第5.5章:囁きの図書室」

ハルが休み始めた翌日の放課後、僕は美央に連れられて、島の図書館へと向かった。図書館もまた透明化の最中にあり、書棚に並ぶ無数の本が、まるで空中に整然と並べられたレンガのように見えた。

ハルが休み始めた翌日の放課後、僕は美央に連れられて、島の図書館へと向かった。図書館もまた透明化の最中にあり、書棚に並ぶ無数の本が、まるで空中に整然と並べられたレンガのように見えた。

「ここなら、島の秘密についてもっと詳しくわかるはずよ」

美央は慣れた手つきで、郷土資料のコーナーから一冊の古びた本を取り出した。本の表紙には『潮成島奇譚』と書かれている。透明な表紙を透かして見ると、中の文字が何層にも重なって見え、解読するのに苦労した。

「見て、凪。ここに書いてあるわ」

美央が指差したページには、墨で描かれた奇妙な魚の絵があった。

『古の時、この島には言葉を食べる魚が住み着けり。人は言えぬ思いを海へと放ち、魚はそれを食らいて透明とならん。島が透き通るは、魚が満腹となりて、人の思いを光へと変えんとする時なり』

「言葉を食べる魚……」

「そう。つまり、島が透明になるのは、誰かが『言えない言葉』をたくさん抱え込んでいるからなのよ。今、島がこんなに透き通っているのは、ハル君の秘密がそれだけ重いってことじゃない?」

美央の解釈は、どこまでも一直線だった。彼女にとって、この伝説は「秘密を暴く正当性」を与える根拠になってしまったようだ。

「でも、美央。この後に続きがあるよ」

僕はページをめくった。そこには、さらに小さな文字でこう記されていた。

『されど、魚の食らいたる言葉を無理に引き出すべからず。それは人の魂を削るに等しき業なり。言葉は自ら紡がれるを待つべし』

「自ら紡がれるのを待つ……」

僕はその言葉を噛み締めた。だが、美央はすでに次の棚へと移動していた。彼女の耳には、もう僕の不安な声は届いていないようだった。

「凪、見て! こっちには『透明な日の給食』についての記述もあるわ!」

彼女が見つけたのは、大正時代の教師が残した日記だった。そこには、透明な日に生徒たちの弁当の中身が透けて見え、それぞれの家庭の貧富の差が残酷なまでに浮き彫りになった悲劇が記されていた。

「昔の人も、同じことで悩んでたんだね……」

「だからこそ、私たちはそれを克服しなきゃいけないのよ! 隠すんじゃなくて、みんなで共有して、助け合う。それが現代の正しい姿でしょ?」

美央の瞳は、理想に燃えていた。その輝きは美しかったけれど、同時にとても危ういものに見えた。僕たちは透明な図書室を出て、夕闇に染まる島を歩いた。地面の下で眠る「言葉を食べる魚」が、今の僕たちの会話をどんな気持ちで聞いているのか、僕には想像もつかなかった。