透明な島の給食当番

透明な島の給食当番 第6話「第5章:献立の裏側」

ハルが欠席したことで、クラスには不穏な空気が流れた。美央は諦めていなかった。彼女は休み時間のたびにクラスメイトを集め、ハルの家庭事情について話し始めた。「ハル君の家は夜逃げ寸前らしい」「みんなで助けよう」という噂は、瞬く間に広まっていった。

ハルが欠席したことで、クラスには不穏な空気が流れた。美央は諦めていなかった。彼女は休み時間のたびにクラスメイトを集め、ハルの家庭事情について話し始めた。「ハル君の家は夜逃げ寸前らしい」「みんなで助けよう」という噂は、瞬く間に広まっていった。

僕はその輪に入ることができず、逃げるように給食室へと向かった。

「凪君、今日は元気がないね」

トミさんが、大きな鍋をかき混ぜながら言った。今日の献立は、島で採れたヒジキの煮物と焼き魚だ。地味だが、滋味深い香りが漂っている。

「トミさん……島が透明な日に見える文字のこと、知ってるんですよね」

僕の問いに、トミさんは手を止め、透明な窓の外の海を見つめた。

「ああ、知っているよ。あれはね、島がみんなの『重荷』を預かってくれている証拠なんだよ」

「重荷?」

「人間はね、誰にも言えない秘密を抱えていると、心がどんどん重くなって、沈んでしまう生き物なんだ。この島はね、そんな人たちの言葉を代わりに吸い取って、潮が引く時に透明になることで、その重さを逃がしてあげているんだよ。文字が見えるのは、島が『この人の荷物はもう限界だよ』って教えてくれている合図なんだ」

トミさんの言葉は、美央の解釈とは微妙に違っていた。島は「暴け」と言っているのではなく、「受け止めてやれ」と言っているのではないか。

「でも、それを勝手に他人にバラすのは、正しいことなんでしょうか」

「それはね、凪君。知っていることと、言ってよいことは違うんだよ。言葉っていうのは、本人の口から出て初めて、その人の血肉になる。他人が勝手に引きずり出した言葉は、ただの死んだ文字に過ぎないんだ」

トミさんは僕の肩に優しく手を置いた。

「凪君、君は給食当番だ。給食当番の仕事は、秘密を暴くことじゃない。みんながお腹いっぱい食べて、明日も頑張ろうって思えるように、温かい食事を届けることだろう?」

僕はハッとした。自分がすべきことは、美央の暴走に同調することでも、ただ黙って見ていることでもない。ハルが自分の足で立てるように、彼に寄り添うことだったのだ。