透明な島の給食当番

透明な島の給食当番 第2話「第1章:スープの中の告白」

給食室の中も、今日は全てが透き通っていた。巨大な回転釜の中で煮込まれるスープが、まるで空中に浮いた液体の塊のように見え、湯気が透明な天井へと吸い込まれていく。

給食室の中も、今日は全てが透き通っていた。巨大な回転釜の中で煮込まれるスープが、まるで空中に浮いた液体の塊のように見え、湯気が透明な天井へと吸い込まれていく。

透明化した床は、一見するとそこには何もないかのようだ。僕は慎重に足を運び、自分が立っている場所を確かめる。視線を下げれば、一階の廊下を通る下級生たちの頭頂部が見え、さらにその下の地面までが筒抜けになっている。高所恐怖症の人が見れば悲鳴を上げるような光景だが、僕たちにとってはこれが「休息」の日の当たり前だ。

「凪君、今日は盛り付け、丁寧にお願いね。透明な日は、器の中身がいつもより強調されて見えるから」

「凪君、今日は盛り付け、丁寧にお願いね」

給食のおばさん、トミさんが笑顔で言った。トミさんはこの島で一番長く給食を作っている人で、彼女の作る料理は島のみんなに愛されている。

僕は割烹着の袖をまくり、お玉を握った。今日の献立は、島の特産であるアサリを使ったクラムチャウダーと、焼きたてのコッペパンだ。クラスメイトたちが透明なトレイを持って、僕の前に並び始める。

「お待たせ。はい、ハル」

僕は、都会から半年前に転校してきたハルの器に、たっぷりとスープを注いだ。ハルはいつも通り、人当たりの良い笑顔を浮かべて「ありがとう、凪」と言った。

その時だった。

ハルの器に注がれた白いスープの表面に、黒いインクを垂らしたような文字が、くっきりと浮かび上がったのだ。

『うそつき』

「えっ……?」

僕は思わず声を上げそうになり、お玉をスープの中に落としそうになった。慌てて視線を器に戻すが、文字は消えない。まるでスープの具材の一部であるかのように、そこにはっきりと刻まれている。

ハルは僕の異変に気づかず、透明なトレイを持って自分の席へと歩いていった。僕は他の生徒たちの器にもスープを注いだが、文字が浮かんでいるのはハルの器だけだった。

「凪、どうしたの? 手が止まってるよ」

隣でパンを配っていた美央(みお)が、怪訝そうな顔で僕を覗き込んだ。美央は僕の幼馴染で、クラスの学級委員も務めている。正義感が強く、曲がったことが大嫌いな彼女の瞳は、透明な校舎の光を反射して鋭く輝いていた。彼女はいつも「正しさ」を追い求めている。その姿勢は尊敬に値するけれど、時々、その真っ直ぐさが眩しすぎて、僕のような曖昧な人間は目を逸らしたくなることがある。

「あ、いや……なんでもない。ちょっとぼーっとしてただけ」

僕は誤魔化した。だが、心臓の鼓動は早まるばかりだった。ハルの器に浮かんだ『うそつき』という文字。それは、彼が誰にも言わずに抱えている秘密なのだろうか。そして、なぜ僕にだけそれが見えたのか。

透明な島では、隠し事ができない。そんな古い言い伝えを、僕は初めて肌で感じていた。島全体が巨大なレンズになって、僕たちの心の奥底を覗き込もうとしているような、そんな奇妙な圧迫感。ハルは僕の視線に気づいたのか、一瞬だけ食べる手を止め、すぐにまたスープを啜り始めた。その横顔は、透明な校舎の光を受けて、どこか現実味を欠いて見えた。